| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-377  (Poster presentation)

農作物採食はニホンジカの成長と繁殖を促進するか?
Does agricultural crop consumption improve physical and reproductive performance of free-ranging sika deer?

*秦彩夏(農研機構), 中下留美子(森林総研), 姉崎智子(群馬県博), 南正人(麻布大学), 福江佑子(あーすわーむ), 樋口尚子(あーすわーむ), 鵜野光(農研機構), 中島泰弘(農研機構), 佐伯緑(農研機構), 小坂井千夏(農研機構), 高田まゆら(東京大学)
*Ayaka HATA(NARO), Rumiko NAKASHITA(FFPRI), Tomoko ANEZAKI(Gunma Mus. Nat. His.), Masato MINAMI(Azabu Univ.), Yuko FUKUE(earthworm), Naoko HIGUCHI(earthworm), Hikaru UNO(NARO), Yasuhiro NAKAJIMA(NARO), Midori SAEKI(NARO), Chinatsu KOZAKAI(NARO), Mayura B TAKADA(Univ. oTokyo)

牧草地や農地はシカにとって好適な餌場環境であり、個体数が増加し、更なる農業被害を生み出す可能性が指摘されてきた。しかし、農作物利用がシカの個体数の増加プロセスにどのように寄与するのかは不明な点が多い。そこで本研究では、農作物利用がニホンジカ(Cervus nippon)の体サイズと妊娠率に与える影響を検証する。
シカによる農作物利用が多く確認されている長野県および群馬県内の調査地で、2012-2019年の12月―翌5月に捕獲された152頭のメスのシカ個体試料を収集した。また、同地域でシカによる採食が確認されている自然下植物試料を収集した。シカ個体の農作物依存度を定量評価する手法として、複数年の食性履歴を反映する骨コラーゲンを用いた窒素安定同位体比(δ15N)分析を行った。
安定同位体比分析を行った結果、自然下植物と農作物(牧草類・葉野菜)ではδ15N値が大きく異なった。シカ個体の骨コラーゲンのδ15N値は-0.5~7.3‰の範囲で大きくばらついたことから、シカの農作物依存度には大きな個体差があると考えられた。農作物依存度が体サイズや妊娠率に与える影響を齢カテゴリ毎(「0歳」「1-4歳」「5歳以上」)に検討した結果、「0歳」および「1-4歳」ではδ15N値が高いほど体サイズ(最大頭骨長、以下TL)が大きくなった。また、「1-4歳」ではTLが大きいほど妊娠率が高かった。さらに「1-4歳」ではδ15N値が高いほど妊娠率が高い傾向がみられた。「5歳以上」ではいずれの傾向もみられなかった。上記結果から、農作物は特に若齢期のシカ個体の体サイズや妊娠率に影響を及ぼすことが示唆された。


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