| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-388  (Poster presentation)

農作物利用はシカの妊娠率を向上させるのか?窒素安定同位体比による検証
Can the pregnancy rate of deer increase with rise in crop damage by deer? Evaluation using nitrogen stable isotope values

*幸田良介(大阪環農水研・多様性), 原口岳(総合地球環境学研究所), 石塚譲(大阪環農水研・多様性)
*Ryosuke KODA(Biodiv. C. Osaka), Takashi F HARAGUCHI(RIHN), Yuzuru ISHIZUKA(Biodiv. C. Osaka)

日本各地でシカによる農業被害が深刻化する中、農作物の採食がシカの栄養状態を高め、シカの増加に寄与するものと予想されている。一方で、農作物利用度の定量評価の困難さゆえに、明確な検証は実施されていない。そこで、窒素同位体比が農作物利用度の指標となることを利用して、大阪府北摂地域に生息するシカを対象に、農作物利用が栄養状態や妊娠率にどのように寄与するのかを検証した。
2019年2月~3月中旬にかけて捕獲されたオス19個体、メス32個体を対象に、捕獲地点、性別、年齢(0歳、1歳、2歳以上)を記録するとともに、メスの妊娠の有無を記録した。各個体から体毛と腎臓を収集し、体毛の窒素安定同位体比分析を行うとともに、栄養状態の指標としてライニー式腎脂肪指数(RKFI)を算出した。また、大阪府北摂地域の104ヵ所で毎年実施されているシカ生息密度推定結果を用いて、各個体が捕獲された地域のシカ生息密度の平均値を算出した。その後、GLMMを用いてRKFIに対する各要因の影響と、妊娠の有無に対する各要因の影響を解析した。
解析の結果、RKFIに影響する要因として、年齢、性別、農作物利用度が選択された。メスの方が有意に高いRKFIを示すとともに、農作物利用度が高いほどRKFIが高くなる傾向がみられた。一方で妊娠の有無に対しては、シカ生息密度のみが正の要因として選択された。年齢や農作物利用度が大きいほど妊娠率が増加する傾向はみられたものの、要因として選択されるほどの影響はみられなかった。以上のことから、農作物利用がシカの栄養状態を向上させているものの、シカの妊娠の有無には強く影響していない状況が明らかになった。非妊娠個体でも平均RKFIが37.9と高いことから、本地域におけるシカの栄養状態が全体的に良好であることが影響しているものと考えられた。


日本生態学会