| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S04-5  (Presentation in Symposium)

リーフマイナー のトンネル工事:その進化的起源と生態的意義
Evolutionary origin and ecological significance of tunnel customization by leaf miners

*大島一正(京都府大・院生命環境)
*Issei OHSHIMA(Kyoto Prefectural Univ.)

リーフマイナーとは,主に幼虫期に寄主植物の葉などに潜って生活する昆虫の一群である.そもそも葉に潜れる程に体サイズが小さいため,一度潜り始めると,潜った葉かその近辺の葉にしかアクセスできない場合がほとんどあり,幼虫期に得られる餌資源の量や適合性は,潜る葉が決められた時点でほぼ決定されてしまう.また,潜ることは潜り跡を残すことでもあり,天敵に対して自身がいる場所への誘導路を作ってしまうことにもなるだろう.このように「潜る」という生活様式は体サイズ以外にも様々な制約をもたらすが,リーフマイナーの中には,潜っている植物部位の発生や代謝を自身に都合がいいように操作することで餌の質と量を改善したり,潜り方を複雑にすることで天敵の攻撃を回避しているものが知られている.本発表では,前者の例として幼虫期の特定の時点から急にゴール形成を開始するリーフマイナーを,そして,後者の例として平面的であった潜り跡を特定の齢期から立体的に改造するリーフマイナーを取り上げる.

タマホソガ Caloptilia cecidophora は,鱗翅目ホソガ科に属するゴール形成種であるが,1〜2齢の時はリーフマイナーとして過ごす.ゴールが形成された葉と通常葉の代謝産物を網羅的に比較したところ,アルギニンなどのアミノ酸が有意に増加していたほか,寄主植物には本来ほとんど含まれていない化合物の増加も見られた.本種は,ゴール形成種としては珍しく累代飼育が可能であり,室内飼育から明らかとなったゴール形成期特有の幼虫の行動や,植物操作能の遺伝基盤に迫るための試みも併せて紹介する.

クルミホソガ Acrocercops transecta も,同じくホソガ科に属するリーフマイナーだが,幼虫が成長に応じて3パターンの潜り跡を形成する.特に,4齢から終齢の5齢にかけて形成するマインでは,幼虫の絹糸を用いた加工により潜り跡が3次元的となり,マイン内にできた逃げ場所が寄生蜂からの回避に重要な役割を果たす,という例を紹介する.


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