DNAシーケンシング技術の高度化は多様な環境中の生物群集に関する情報の大規模な蓄積を実現し、複雑な生物系の振る舞いをもとに生態学理論を検証・アップデートするまたとない機会をもたらしている。生態学理論の核心として、微分方程式に基づく機構的モデルの重要性が揺らぐことはないだろう。一方で、微生物叢を始めとする多種系群集を機構的モデルで取り扱うことには様々な困難があり、いくつかの代替的なアプローチが発展してきている。本講演では、その中から「エネルギーランドスケープ解析」に焦点を置いて基本的なアイデアと応用例を紹介する。エネルギーランドスケープ解析は、群集組成をポテンシャル地形（エネルギーランドスケープ）にマップすることで、群集動態のシステマチックな理解を可能にする。エネルギーランドスケープ解析の応用例として、大規模な群集組成シフトの予兆検知、生態学的レジリエンスの環境応答予測、多様な背景を持つ群集の組成・相互作用・安定性の包括的な比較分析について概説する。