| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S23-7  (Presentation in Symposium)

シカ類の季節移動と管理上の課題
Seasonal migration of deer and its management issues

*立木靖之, 伊吾田宏正(酪農学園大学)
*Yasuyuki TACHIKI, Hiromasa IGOTA(Rakuno Gakuen University)

近年、ニホンジカは全国的に生息域や生息頭数を増加させており、地域の生物多様性に影響を与えるようになってきた。捕獲や防除の対策を効果的に推進するためには、シカが「いつ」「どこを利用しているか」という情報が不可欠であり、GPS首輪による行動の把握が重要といえる。発表者らがこれまでにまとめた結果、2019年11月現在、全国で1116頭以上(追跡終了したものも含む)の個体数の追跡データが存在することが分かっている(SikaBase2019)。
北海道に生息するエゾシカは、過去、道東地域に集中的に分布していたが、今日は北海道全域に分布を拡大しており、全道的な対策が実施されている。例えば日本最大の湿原を有する釧路湿原(国立公園)ではエゾシカによる湿原植生への影響、周辺の生活被害、農業被害などの問題を引き起こしている。GPS首輪を用いた調査を実施した結果、釧路湿原で越冬する個体のうち約半分は根釧平野の酪農地帯に移動して夏期を過ごすことが分かった。最も遠くまで移動した個体は達古武湖(釧路町)から、標茶町、別海町、中標津町を通過して標津町の市街付近まで直線距離で約75km移動した。一方、釧路湿原付近に残留する個体のなかでも、湿原だけを夏期も冬期も利用している群がいることも明らかになった。周辺地域では積極的な駆除が行われているが、国立公園内のみを使う個体群には効果がないため将来的に湿原内部のみを利用する個体が増加する可能性もある。
シカ類の管理上の課題は、場合によって複数市町村や県をまたいで季節移動するため、広域で連携しながら対策を行う必要がある点といえる。一方、他の地域のシカ類は季節移動をほとんどしない群がいることも分かっている。やみくもに対策を実施するのではなく、まずシカの行動を正確に把握した上で戦略を立てる必要がある。そのためには、GPS首輪を用いた追跡調査は非常に有用であるといえる。


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