| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S26-1  (Presentation in Symposium)

桐生試験地における長期観測: 集水域研究の強みとは
Long-term observations in Kiryu Experimental Watershed: advantages of the catchment study

*大手信人(京大院・情報学研究科)
*Nobuhito OHTE(G. S. Informatics, Kyoto Univ.)

集水域を対象とする調査は、森林が成立するような湿潤な気候下の陸域生態系の物質循環を把握するための常法である。1960〜1970年代に北東アメリカのハッバードブルック実験林で行われた物質循環量に関する研究はこの方法論が世界的に敷衍される出発点となった。ここでは対照流域法という大規模な操作実験を行うことによって、森林生態系の撹乱、生育、維持に関する”Pattern and process”を物質循環量の変化の上に記述する方法がとられた。桐生試験地の観測は1964年から1974年まで実施されたThe International Biological Program (IBP)のアジアでの活動の中で、上記のようなコンセプトのもと1972年に開始された。桐生試験地内には面積の異なる複数の小集水域が存在し、最も観測開始が早い集水域では1972年以降、歴史的評価の対象となるような連続データが取得されてきている。地球環境変化の影響を評価することの可能な長期にわたる気象・流量データが取得されている。 生態系スケールでの物質収支を計算するためにはinputとしての降下物とoutputとしての渓流水質を把握する必要がある。収支の正負は集水域生態系が物質のシンクであるかソースであるかを意味する。森林の生育、維持、撹乱、回復などの動態に関するプロセスを上記のような物質循環量の情報とともに解析することで、生態系の構造と機能を正確に理解することができる。長期にわたって継続することの強みは、生態系の動態を短期的な変化と長期的な変化の両方を俯瞰的に把握することができることだろう。気候変動のような緩慢な変化の影響と、病虫害などによる撹乱に対する反応とでは変化の時定数がことなるが、自然条件下ではこれらが重なって生じることが多い。これらの反応を峻別しつつ実証的に議論できる情報は連続的なデータの蓄積によるしかない。


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