| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S29-1  (Presentation in Symposium)

標本のDNA解析が明らかにする絶滅個体群の由来
DNA analysis of specimens reveals the origin of extinct population

*兼子伸吾(福島大)
*Shingo KANEKO(Fukushima Univ.)

地元で発見・記載されたものの絶滅してしまった植物は、果たして地元の固有種なのか、それとも外来種なのか。残された標本の遺伝解析ができれば、そのような問いに答えることができるかもしれない。イワキアブラガヤScirpus hattorianus Makino (カヤツリグサ科) は福島県耶麻群磐梯町で1925年に採集された標本に基づき、1933年に新種記載された植物である。しかし、1939年を最後に現在まで確認されておらず、27枚の標本が現存するに過ぎない。最初は日本の固有種であると考えられたが、形態の似た植物が北米に分布することが明らかになったことから、北米と日本の隔離分布種という説や北米からの帰化植物という説も出され、その実体は明らかになっていない。本研究では、イワキアブラガヤの由来を推定するために、標本からサンプルを採取して系統解析を行った。劣化したテンプレートDNAからもPCR増幅できるように、葉緑体において、東アジアと北米のScirpus属植物を識別可能な短い領域を増幅するプライマーを新たに設計し、塩基配列の決定を行った。
その結果、福島県で80年前に採取されたイワキアブラガヤの葉緑体DNAの塩基配列は、北米のイワキアブラガヤScirpus hattorianusとは一致せず、北米に分布するイワキアブラガヤの近縁種のS. atrovirensS. flaccidifoliusの塩基配列と一致した。外部形態と葉緑体のハプロタイプとの不一致から、北米には純粋なイワキアブラガヤの系統とかつて近縁種と交雑したイワキアブラガヤの系統が存在し、近縁種と交雑した系統は、イワキアブラガヤと同じ外部形態と近縁種と同じ葉緑体をもつことが示唆された。そして、この交雑系統の個体が福島に移入、発見され、新種として記載されたと推測された。つまり、イワキアブラガヤとして記載された系統は、純粋なイワキアブラガヤの系統ではなく、交雑した系統が先に見いだされ、その後、純粋な系統が再度認識されたと考えられた。


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