| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S29-4  (Presentation in Symposium)

植物標本DNAのMIG-seq法による利用可能性・解析手法の検討
Examination of Possibilities and Methods for MIG-seq Analysis Using Plant Herbarium Specimen-Derived DNA

*岩崎貴也(神奈川大)
*Takaya IWASAKI(Kanagawa Univ.)

博物館の植物標本DNAは、紫外線や薬品燻蒸の影響で断片化しており、通常の方法でのDNA分析は難しいことが多い。そこで本研究では、近年に開発されたMIG-seq法(Suyama & Matsuki 2015)を用いて6種の標本DNAを解析し、その有効性について検証した。MIG-seqではSSR配列に挟まれたISSR領域を対象としたPCR増幅を最初に行うため、断片化が進んだ少量のDNAであってもPCRの高い増幅効果によって効率的に解析ができる可能性がある。サンプルは神奈川県立生命の星・地球博物館(KPM)、長野県環境保全研究所(NAC)、横須賀市自然・人文博物館(YCM)の標本から葉片を採取し、最初のPCR条件を30 cycleまで増やして解析を行った。その結果、6種全てで、平均して数千以上の遺伝子座が増幅され、これらの種の標本DNAでもMIG-seq解析が有用であることが示された。得られたリード数と遺伝子座数は有意に相関しており、リード数が300,000を超えても遺伝子座数は収束せずに増え続けていた。また、標本作製年と、同じリード数で得られる遺伝子座数の関係を調べたところ、一般的に古い標本ほど遺伝子座数は減少して解析効率が悪化していたが、一部ではそのような傾向がみられない種もあった。1980年頃以降に作製された標本では比較的多くのサンプルで十分な遺伝子座数が得られており、多くの種で比較的容易に解析可能なのはこのぐらいの年代までであろうと思われる。また、複数回の独立したライブラリ作製で得たデータを統合すると、最大1,200,000リードを超えても、まだ遺伝子座数は増加し続けていた。これらの結果をまとめると、標本DNAを用いてMIG-seq解析をする際には、複数回の独立したライブラリ作製を同時に行い、リード数を多く得ることが最も有効であると思われる。本講演ではこれらの結果に加え、標本からのサンプル採取方法やその後のDNA実験で気をつけたこと、現生サンプルとも合わせて神奈川県のマツバランを対象に集団遺伝解析を行った結果についても紹介する。


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