| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W18-1  (Workshop)

マルハナバチの個体群動態と高山植物群集の開花フェノロジー変動
Population dynamics of bumble bees and the variation in flowering phenology of alpine plant communities

*工藤岳(北海道大学), 井本哲雄(マルハナバチバスター)
*Gaku KUDO(Hokkaido Univ.), Tetsuo IMOTO(Bumble bee  B.)

高山生態系において、マルハナバチ類は重要な花粉媒昆虫であり、多くの高山植物が受粉をマルハナバチに依存している。気候変動に伴う温暖化や積雪期間の短縮は、マルハナバチの個体群変動や、開花期と活性時期との季節的ミスマッチを引き起こす可能性がある。高山生態系の送粉系相互作用は、気候変動により大きく改変されると危惧される。北海道大雪山国立公園では、モニタリングサイト1000高山帯調査の一環として、高山植物の開花とマルハナバチの個体数変動を約10年に渡って記録してきた。蓄積されたデータを基に、マルハナバチの個体群動態と高山植物群集の開花フェノロジー動態の関連性について解析した。
 マルハナバチの働きバチは7月後半から現れ、7月中旬以降に開花が始まる雪田植物群集を主な採餌場所として利用する。雪田植物群集の開花時期は雪解け時期に強く影響され、年変動が激しい。高山帯には3種の主要マルハナバチが分布しており、働きバチの発生パターンは種間で異なっていた。高山帯で越冬・営巣するエゾオオマルハナバチは、営巣期の気温が高いほど働きバチの発生は早まり、暖かく雪解けの遅い夏に個体数が増加した。低標高で越冬し、高山帯で営巣するエゾヒメマルハナバチは、暖かく雪解けの遅い夏に個体数が増加し、営巣期に氷点下になる頻度が高いと個体数は減少したが、働きバチの発生時期は環境に影響されなかった。一方で、低標高で越冬・営巣し、高山帯には採餌に訪れるエゾナガマルハナバチは、働きバチの発生時期・個体数ともに環境との関連性は見られなかった。働きバチの発生ピークと雪田植物群集の開花ピークとのミスマッチのリスクは、雪解けの早期化により高まることが明らかとなった。しかし、ミスマッチに対する脆弱性はマルハナバチ種により異なり、高山帯で生活環を完結するエゾオオマルハナバチは、比較的ミスマッチの影響を受けにくいことが示された。


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