| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W18-3  (Workshop)

北アルプス蝶ヶ岳の高山植物に訪花するマルハナバチの長期モニタリング
A long-term monitoring of bumblbee assemblages visiting flowers of alpine plants on Mt. Chogatake in the Northern Japan Alps

*須賀丈(長野県環境保全研究所), 田中洋之(京都大学), 江川信(信州大学)
*Takeshi SUKA(Nagano E. C. Res. Inst.), Hiroyuki TANAKA(Kyoto Univ.), shin EGAWA(Shinshu Univ.)

高山帯の訪花昆虫相ではマルハナバチ類が双翅目とともに優占することが知られている。気候変動で高山植物への昆虫の訪花がどのような影響を受けるか、またセイヨウオオマルハナバチや低標高域の在来マルハナバチ類が高山帯に分布を広げるかどうかなど、人間活動の高山生態系への影響を把握する上でマルハナバチ相を長期観測する必要性は高い。しかし本州の高山帯でマルハナバチ類が長期観測された例はない。モニタリングサイト1000では大雪山でマルハナバチ類の詳細な調査がおこなわれているが、北海道と本州では高山植物相・マルハナバチ相が異なり、気象現象の現れ方も異なる。そこで北アルプス蝶ヶ岳にマルハナバチの観測ルートを設定し、2010年から調査を開始した。観測ルートは全長約2km、標高2480-2670mで、ダケカンバ帯・雪田群落を含む区間(A区)と稜線のハイマツ帯・風衝地を含む区間(B区・C区)から成る。調査は年2回、7月下旬-8月上旬と8月中旬-下旬にできるだけ晴天の日を選んで午前中に実施し、確認できたマルハナバチの種名と個体数、訪花植物を記録した。これまでの調査でマルハナバチ5種、訪花植物約30種が記録された。最優占種はヒメマルハナバチであり、オオマルハナバチがほぼ毎年記録されたほか、ナガマルハナバチ、トラマルハナバチ、ニッポンヤドリマルハナバチがそれぞれ年により少数記録された。このうちトラマルハナバチはより低い標高域に通常は分布する。セイヨウオオマルハナバチは記録されなかった。A区では雪田群落を中心に年2回の調査を通じ訪花が記録されたのに対し、B区・C区では各年後半の調査で訪花がほとんど記録されなかった。A区とB区・C区とでは、訪花植物の重なりがわずかであった。今後の変動を把握する上では、積雪量と開花フェノロジーの変化、雪田と風衝地での変動の差、ニホンジカによる摂食被害などが注目点となるであろう。


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