| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第13回 日本生態学会大島賞/The 13th Oshima Award

サケ科魚類のフィールド研究:長期モニタリングを楽しむ術
Field researches on salmonid fishes: How to enjoy long-term monitoring

森田 健太郎(国立研究開発法人水産研究・教育機構)
Kentaro Morita(Japan Fisheries Research and Education Agency)

 僕は子供の頃は生粋の釣りキチだった。高校生のときに自転車で遠征し、初めてアマゴを釣った時のことは、その川の淵の形状までも鮮明に覚えている。このようなフィールドにおける実体験はかけがえのないものであり、そこから生態学の道へ進んだ人が多いのではないだろうか。近年、研究手法の技術革新によって、研究対象とする生物に直に触れずに研究する機会が多くなったように思う。しかし、生物に直に触れる、その生物が置かれている環境の中に自らの身を投じることの大切さは、再認識する必要があると思う。生態現象は理屈では理解していても、実際にフィールドで体験したときに得られる感覚は特別なものであり、それが研究のアイディアの源となってきた。自然は理解するだけではなく感じるものであり、古典的な手法のフィールド研究はそういった感覚を磨くという点では実は優れている。
 これまで複数のフィールドにおいて、論文として発表した後も、継続してモニタリング調査を実施してきた。現在までに14~18年間におよぶ長期的な個体群動態や生活史形質に関する時系列データを蓄積し研究に活用している。例えば、外来マスと在来イワナの種間競争に関する一連の研究では、スナップショットの空間分布に関する結果を発表した後、18年間フィールド調査を継続し、外来マスが在来イワナの個体数変動を左右することを突きとめた。調査を始めた2002年は、まだイワナが多い川であったが、7~8年後にはブラウントラウトが優占するようになった。しかし、15年後には優占種がブラウントラウトからニジマスへと置き換わった。一方、2002年に外来マスばかりであった別の川では、魚が上れなかったダムに魚道が設置され、10年後には在来種のサクラマスの川に蘇り、今では在来種ばかりの川となった。人間が種苗放流を継続しても魚が一向に増えない川もあるのに、である。自然再生に大切なことは、自然の自己回復能力を阻害している要因を除去することであると肌で感じた。生態現象の“生”を記録することはスリリングだ。
 さあ、今からでも遅くない。


日本生態学会