| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) A01-06  (Oral presentation)

ブナ林の地上部生産に対する細根動態の役割:状態空間モデルによる時系列解析
Possible roles of fine root dynamics for aboveground production in beech forests: time series analysis with the state space model

*仲畑了(京都大学), 楢本正明(静岡大学), 佐藤雅子(静岡大学), 水永博己(静岡大学)
*Ryo NAKAHATA(Kyoto University), Masaaki NARAMOTO(Shizuoka University), Masako SATO(Shizuoka University), Hiromi MIZUNAGA(Shizuoka University)

様々な森林生態系で起こるマスティング(繁殖生産が空間的に同調しながら大きく年変動する現象)は樹木の資源利用戦略を理解する上で重要な要素の一つである。一方、細根は養水分獲得を行うだけでなくその成長に純一次生産の多くを消費する。マスティングのメカニズムを探るためには、どのように樹木が細根を介して資源獲得し多量の繁殖生産を成功させているのか、また繁殖を含めた地上部生産が細根生産に与える影響を評価することが重要である。本研究の目的は、成熟したブナ林における細根生産のフェノロジーを明らかにするとともに、地下部を含めた生態系純一次生産の年変動を評価し、マスティングをともなう地上部生産に対する細根生産の役割を明らかにすることにある。標高の異なるブナ林2林分を対象に、2010年から2017年まで堅果生産・葉生産をリタートラップ法により推定した。同年の肥大成長は毎木調査とアロメトリー式により推定し、積雪期を除く細根生産の季節変動および年変動はミニライゾトロン法と土壌コアサンプリングにより評価した。細根生産の季節変動と地上部生産の関係は、マスティングにともなう花芽形成時期からの影響を考慮した状態空間モデルのパラメーターをベイズ推定することにより解析した。対象のブナ林ではおおよそ隔年のマスティングが観測された。550mサイトで堅果生産は前年秋の細根生産に正の効果を示す一方、1500mサイトで当年の細根生産に負の効果を示した。前者は花芽分化にともなう細根による資源獲得の増加を示唆し、後者は豊作にともなう当年の資源欠乏を意味していると考えられる。加えて、成長期前半の細根生産は葉生産と正の相関を示したことから、展葉にともない水資源の需要に対応するように細根が生産される可能性が示唆された。このように、細根はそのフェノロジーを変化させることにより、地上部の栄養成長と生殖成長を多機能的に支持する役割を担っているといえる。


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