| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) A03-06  (Oral presentation)

多雪ブナ林における低層木の開葉フェノロジー~深さ3mの人力除雪実験から~
Leafing phenology of understory trees in a beech forest by handy snow removal experiments

*吉村謙一, 國嶋真由(山形大・農)
*Kenichi YOSHIMURA, Mayu KUNISHIMA(Yamagata Univ.)

温暖化により積雪量の減少や融雪時期の早期化が予想されており、多雪地の森林生態系は積雪環境の変化により影響を受けると考えられている。ブナ林は国内において多雪地を代表する森林タイプであるが、植生モデルを用いた研究において温暖化によってブナ林が減少すると予測されている。現植生の衰退を考える上で、現存する成木の成長低下とともに後継となる稚樹の生育状態を考慮することは必須である。また、多雪地において稚樹は融雪までの間は積雪下にあるため、融雪期の変化は稚樹の展葉に影響を及ぼすと考えられる。そこで、融雪期が約1ヶ月早期化した場合を模して多雪ブナ林において人工除雪実験をおこない、稚樹の展葉の違いを調べた。
調査地における最大積雪深は362cmであり、除雪区では4/11に除雪が完了し、非除雪区では5/19に自然融雪が完了した。ブナ稚樹、オオカメノキ、オオバクロモジの3種とも除雪区では除雪後20日ほどで展葉を開始したが、非除雪区では融雪後数日で展葉を開始した。ブナ稚樹では試験区間で展葉開始日に違いがあるだけであったが、一斉展葉型の低木であるオオカメノキでは除雪により最終的な葉面積が低下し、順次展葉型の低木であるオオバクロモジでは除雪により展葉に要する期間が短くなった。また、最大光合成速度はブナおよびオオカメノキで除雪により低下した。
積算温度が展葉時期に影響を与えることが知られているが、本研究では展葉時までの積算温度は処理区間で大きく異なっており、非除雪区では少ない積算気温で展葉していた。林床面の光環境に注目すると除雪後上層木の展葉までの間は明るいが、非除雪区では自然融雪の頃には上層木の展葉が完了しており常に暗い状態になる。これらのことから融雪の早期化によりブナ林の低木層を構成する樹木の展葉は早くなるが、葉面積の減少や光合成能力の低下もあり、必ずしも樹木の生産性に正の影響を与えるとはいえないことが分かった。


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