| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B03-02  (Oral presentation)

北極海に生息する大型カイアシ類Calanus hyperboreusの生活史の海域間比較
Regional comparison of life cycle for large copepod Calanus hyperboreus in the Arctic Ocean

*徳弘航季(北大院水産), 小野寺丈尚太郎(JAMSTEC), 三瓶真(北大院水産), 藤原周(JAMSTEC), 原田尚美(JAMSTEC), 松野孝平(北大院水産), Eva-Maria NOTHIG(AWI), 山口篤(北大院水産)
*Koki TOKUHIRO(Hokkaido University), Jonaotaro ONODERA(JAMSTEC), Makoto SAMPEI(Hokkaido University), Amane FUJIWARA(JAMSTEC), Naomi HARADA(JAMSTEC), Kohei MATSUNO(Hokkaido University), Eva-Maria NOTHIG(AWI), Atsushi YAMAGUCHI(Hokkaido University)

カイアシ類のCalanus hyperboreusは北極海の動物プランクトン群集のバイオマスに優占する。本種は1-6年の寿命を持ち、秋季から冬季にかけては深層で休眠を行い、春季から夏季にかけては表層で摂餌・成長するといった季節的鉛直移動を行うことが知られている。北極海の海洋環境 (海氷密接度、解放水面期間、水温、一次生産など) は季節変化が大きく、しかも北極海内の海域によっても異なる。この環境要因の海域間差は各海域での本種の生活史と強く関連していると考えられるが、海洋環境の季節変化と本種の生態について海域間で比較した研究はない。また、近年の気候変動により環境要因の季節変動自体も変化しつつあるが、それによる本種への影響は不明である。本研究では、水柱内の一定水深に係留することで周年での試料採集が可能なセジメントトラップを用いて、北極海内の異なる海域 (東部フラム海峡、マッケンジートラフ沖、カナダ海盆) における本種の個体群構造の季節変化を評価し、海域間での比較を行うことで、本種の出現個体数や発育段階構成の海域間差に影響を与えている環境要因を明らかにすることを目的とした。本研究では本種の出現個体数は海域間で大きく異なっており、海域での一次生産の指標となる表層クロロフィル濃度と強く関係し、クロロフィルが高い海域で個体数が高かった。また発育段階構成比は休眠時の発育段階を反映していると考えられ、表層水温が高い海域ほど若い発育段階個体の割合が増加していることが分かった。したがって本研究では本種の海域間差 (出現個体数や休眠期の発育段階) は主に各海域での表層水温や表層クロロフィル濃度の影響を受けていることが考えられた。一方で、海洋環境が大きく異なる調査海域いずれにおいても本種が生息していることから、本種の生活史の高い可塑性が示唆され、その可塑性により本種は環境変動に適応できると考えられる。


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