| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-11  (Oral presentation)

最適採餌理論と行動の乖離:認知プロセス解明のための確率的意思決定モデル
Gap between optimal foraging theory and behavior: Stochastic decision-making model for revealing the cognitive process

*川森愛(統計数理研究所), 小倉有紀子(東京大学), 藤川雄基(北海道大学), 松島俊也(北海道大学)
*Ai KAWAMORI(Inst. Statistical Mathematics), Yukiko OGURA(Tokyo Univ.), Yuki FUJIKAWA(Hokkaido Univ.), Toshiya MATSUSHIMA(Hokkaido Univ.)

1976年,Charnovは最適餌パッチ利用モデルを提唱した.採餌によって収益が逓減するパッチでは採餌者はいずれ離脱し,新たな餌パッチを探索する.最適な採餌者であれば、パッチ間移動時間が長くなるほどパッチ内滞在時間も長くなると予測する.この予測を多くの行動研究が概ね支持した.しかし,最適滞在時間を正確に求めようとすれば複雑な計算が必要となり,動物の認知機能として現実的とは考えられない.より単純な認知プロセスで近似的最適性さえ担保されるなら,その方が現実的である.

 我々はヒヨコを用いた行動実験をおこない,最適餌パッチ利用モデルを検証した.結果,移動時間が増えるほど餌場滞在時間も増加する定性的傾向は再現された.一方,滞在時間の平均値は理論から予測される最適値よりも顕著に長かった.この乖離は,移動による消費コストを考慮しても説明できるものではなかった.また,移動時間が長くなるほど滞在時間の分散が大きくなる傾向が見られた.行動データを統計的に評価するため,「留まるか離脱するか」を意思決定する離散的時系列とみなす確率的意思決定モデルを構築した.離脱確率が時間的に変化すると考え、その変化ルールが異なる複数のモデルを構築してデータとの当てはまりを検証した.

 最初に,ヒヨコが最適滞在時間を正確に知っていると仮定して,その時刻を超過するほど離脱確率が上昇するモデルを検証した.データの平均値は説明できたが,上述の分散の傾向は説明できなかった.次に,平均利益率の変化を監視するモデルを検討した.各時点での平均利益率が過去に経験した値の最大値から下がるほど、離脱確率が増大する、と仮定する.これでも平均利益率のおおよその最適化ができる.そのようなモデルを詳細に検証したところ,データの平均・分散双方を説明できた.生物学的に妥当と思われる認知プロセスを仮定することで,現実のデータをより良く説明することができた.


日本生態学会