| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-03  (Oral presentation)

農薬と温暖化が水田生物群集に及ぼす複合影響
Mixture effects of pesticide exposure and warming on aquatic biocenosis of rice paddies

*石若直人(近畿大学), 橋本洸哉(国立環境研究所, 近畿大学), 角谷拓(国立環境研究所), 早坂大亮(近畿大学)
*NAOTO ISIWAKA(Kindai Univ.), KOYA HASHIMOTO(Natl Inst Environ Stud, Kindai Univ.), TAKU KADOYA(Natl Inst Environ Stud), DAISUKE HAYASAKA(Kindai Univ.)

水田生態系の保全を考える上で,農薬の生態影響を理解することは欠かせない.一方で,近年,全球的に温暖化が進行していることから,今後,農薬と温度上昇が生態系に同時に作用することが懸念される.農薬を含む多くの化学物質の毒性が加温下で高くなるとの報告が,近年相次いで報告されている.しかし,これらの知見は,室内での実験や単一生物種による試験,また各影響要因による単独の影響を検証したものがほとんどで,実態と乖離した解釈である可能性が高い.そのため,不確実性を伴う野外の生物群集に対しても,現在の解釈が適応可能かを検証する必要がある.この課題に答えるため,人工生態系(メソコスム)に4つの処理(無処理:C,農薬単独処理:F,加温単独処理:W,農薬・加温複合処理:FW)を施し(各4反復),各処理に対する水生昆虫群集への影響を調査した.PRC解析により処理間の群集組成の差異とその違いをもたらす指標種の抽出を行った.その結果,全ての処理でCとの間に有意な群集組成の乖離が見られた.F処理では農薬濃度の減少に伴い群集組成の回復が見られたが,加温処理下(W,FW)では期間全体を通じて群集組成が乖離していた.これは,加温条件下(温暖化)では,農薬濃度の減少後も温度上昇による影響を受けることで,群集組成が乖離し続けた可能性を示唆している.また,上位捕食者に注目すると,トンボ科は農薬による影響を,ヤンマ科は加温による影響を受け,減少した.ヤンマ科は主に実験期間後期に出現したことを考慮すると,Fではトンボ科減少の後にヤンマ科の出現によって上位捕食者が回復したが,FWでは試験期間を通じて上位捕食者が減少したといえる.上位捕食者の減少は,捕食-被食関係で結ばれた他の生物にも影響が及ぶ.そのため,今後は食物網構造を考慮した解析などを進め,農薬と温暖化が生態系に及ぼす複合影響やプロセスの更なる解明に繋げる.


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