| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-07  (Oral presentation)

個体群モデルを用いた近年のアキアカネ激減に対する農薬等の因果的影響の分析
Analyses of the causal effects of insecticides and other factors on the sharp population declines of Sympetrum frequens using population models

*中西康介, 横溝裕行, 林岳彦(国立環境研究所)
*Kosuke NAKANISHI, Hiroyuki YOKOMIZO, Takehiko I. HAYASHI(NIES)

 水田で繁殖するアカトンボ類の代表種であるアキアカネSympetrum frequensは、1990年代後半以降に日本各地で激減したことが報告されている。その主要因として、毒性試験や野外調査の結果からフィプロニルやイミダクロプリドなどの育苗箱施用の浸透移行性殺虫剤の使用が疑われている。しかし、殺虫剤以外の農業的要因や両者の複合的な影響についてはこれまで検討されてこなかった。そこで本研究では、個体群モデルを用いてアキアカネ激減の要因を総合的に分析することを目的とした。
 殺虫剤の使用量の他、圃場整備率、夏季の気温、水田面積に関連した生存率パラメータを設定してアキアカネの個体群モデルを構築し、数値シミュレーションにより各要因が個体群動態に及ぼす因果的影響を解析した。
 構築した個体群モデルによって、1990年代後半のアキアカネ個体群の激減を再現することができた。仮説的なパラメータを用いたシミュレーションの結果、圃場整備率が低かった場合は、過去の個体数激減は生じなかった。一方で、毒性が低い殺虫剤のみを使用した場合、過去の個体数激減は生じなかった。また、夏季の気温や水田面積の変動が1990年代後半以降のアキアカネ個体群にあたえる影響は小さかった。つまり、1990年代後半のアキアカネ激減は、主に毒性の高い殺虫剤の使用と圃場整備(幼虫のハビッタットの劣化)の複合的な影響によるものであることが示唆された。


日本生態学会