| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-015  (Poster presentation)

寄生虫感染個体の低いボディコンディション:原因か結果か、両方か 【B】
Disentangling the causal relationship between parasite infection and low host condition 【B】

*長谷川稜太, 大槻泰彦, 植村洋亮, 古澤千春, 中正大, 小泉逸郎(北大 環境)
*Ryota HASEGAWA, Yasuhiko OTSUKI, Yohsuke UEMURA, Chiharu FURUSAWA, Masahiro NAKA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 寄生虫は宿主の適応度を低下させ、最悪の場合宿主個体の死亡や個体群の局所絶滅を引き起こす。そのため、野外における寄生虫の正確な影響評価は様々な文脈で重要である。しかし先行研究の多くは、ある一時点における宿主の肥満度・成長率と寄生虫の数の間の相関にのみに着目している場合が多く、負の相関が検出された場合、これを寄生虫の影響として結論づけている。しかしこれら要因間の因果関係は不明である。すなわち、この相関関係には、① 寄生虫の感染が宿主の肥満度低下をもたらす、② 肥満度が低い宿主が寄生虫に感染されやすい、という二つの可能性が含まれている。さらに、これら二つの感染パターンが認められるのであれば、③寄生虫に感染されたことで肥満度が低下した宿主が、新たに感染されやすい「正のフィードバック」も考えられる。しかし、これら感染パターンを野外で実証した例は非常に限られている。

 そこで本研究では、これら感染パターンを分離するフレームワークを提唱し、北海道南部の一水系におけるイワナとナガクビムシの系に適用した。本調査系は上述した因果関係の検証に適している。まず本種は肉眼での確認が可能な上、宿主の口内に寄生するため、野外で宿主個体ごとに感染状況を追跡調査することができる。また演者らによる研究で、宿主の肥満度と寄生虫数の間には、季節によらず明瞭な負の相関が認められている。

 イワナ531個体の感染状況を標識採捕によって追跡した結果、小型の感染個体は成長率が低く(①を支持)、肥満度が低い感染個体ほど次に感染されやすい傾向 (②,③を部分的に支持) があることがわかった。これらは寄生虫の感染は肥満度低下の原因にも結果にもなり得ること、正のフィードバックを引き起こすことを示唆する。本研究は野外で、宿主の低い肥満度と寄生虫感染の因果関係を明らかにした初めての実証例である。


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