| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-098  (Poster presentation)

エダナナフシの卵休眠を調節する環境条件の実験的解析
Experimental analysis of environmental factors regulating egg diapause in Phraortes illepidus.

*中野晏志, 中村圭司(岡山理科大学)
*Haruyuki NAKANO, keiji NAKAMURA(Okayama University of Science)

 夏の終わりまでに産卵されたエダナナフシの卵は、翌春に孵化する。しかし、産卵時期が遅くなると、翌春には孵化せず長期間の休眠に入り、その次の春に孵化する。産卵された年の冬に卵を解剖すると、産卵時期に応じて胚発生がほとんど進んでいない卵と孵化直前まで発生が進んでいる卵に二分される。熱帯性のナナフシ目の一種Didymuria violescensなどでは、卵期間に2回の休眠期を持ち、2年一世代の生活史を送ることが知られている。このことから、産卵時期の遅いエダナナフシの卵も卵期間に2回の休眠期があり、胚発生の初期に気温低下を経験することで誘導される一度目の休眠を持つ可能性がある。そこで、秋の気温の低下を想定した条件での室内実験を行うことで、エダナナフシの胚発生初期に休眠が誘導されるかを調べた。
 岡山県岡山市で採集したエダナナフシを野外条件で飼育し、産卵させた。20℃12L-12D一定の条件に卵を設置し、4、8、12、16週目に解剖した。また、産卵後25℃12L-12Dで1~3週間飼育した卵を15℃または20℃12L-12Dに移動し、その4、8、12、16週後に解剖した。
 20℃一定で飼育した条件では、12週目までに胚発生が進んだ卵はほとんどなかった。25℃で3週間飼育してから気温低下を経験させた場合、移動から4週目で15℃では約27%(n = 30)、20℃では約23%(n = 30)の卵で胚発生が見られた。それ以降では発生率の増加は見られなかったが、15℃で12週目、20℃で8週目に孵化直前まで胚発生が進んだ。一方、25℃の飼育期間が2週間以下の条件では、15℃または20℃への移動後に胚発生が進んだ卵はほとんどなかった。胚発生初期に気温の低下を経験すると胚発生が止まることから、エダナナフシの卵は胚発生後期の休眠のほかに、胚発生初期の気温の低下によって誘導される休眠を持つと考えられる。


日本生態学会