| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-107  (Poster presentation)

スカシヒロバカゲロウ(脈翅目)の半水棲幼虫が示すスプレー型防御行動とその効果
Spray against predators by the semiaquatic larvae of Osmylus (Neuroptera)

*岩浪創, 林文男(東京都立大学)
*Tsukuru IWANAMI, Fumio HAYASHI(Tokyo Metropolitan Univ.)

 動物は,化学物質を分泌して天敵から身をまもることが多い.それでも,化学物質を天敵に向けて噴射(スプレー攻撃)する例は稀である.とくに水中での例はほとんど知られていない.スカシヒロバカゲロウOsmylus hyalinatusの幼虫は,小川や池の縁の倒木表面などに生息する半水棲の脈翅目昆虫である.本種の幼虫が外的刺激を受けると,その方向に尾を曲げ,後腸の開口部から透明の液体を噴射することを初めて見出した.噴射行動は水中でも陸上でも起こる.液体は後腸末端部に貯蔵されていることが解剖により明らかとなった.そこで,この液体の噴射が,彼らの天敵に対してどのような効果を持つのか明らかにするため,水中の捕食者であるヤマトクロスジヘビトンボの幼虫とアカハライモリの成体,さらに陸上の捕食者であるツチガエルの幼体とクロヤマアリの働きアリを用いた捕食実験を行なった.その結果,いずれの捕食者に襲われた場合でもスカシヒロバカゲロウの幼虫は液体を噴射し,それによって捕食者が幼虫を放す,あるいは吐き戻すという行動を示した.クロヤマアリでは,噴射された液体が体表に付着すると,おそらく脚が痙攣するのか正常に歩行できなくなった.アカハライモリとツチガエルから吐き戻された幼虫は,その多くが生存したが,ヤマトクロスジヘビトンボの大顎に捕らえられた幼虫はおそらく外傷を負うことによってたとえ放されてもすべての幼虫が死亡した.このように,スカシヒロバカゲロウの幼虫における化学物質の噴射は,水中,陸上両方の捕食者に対して有効であり,とくに両生類や魚類などのように餌を丸呑みする捕食者や,アリなどの比較的小型の捕食者に対して高い捕食回避効果を持つことが明らかとなった.脈翅類の幼虫では,消化管は中腸で閉塞しており,蛹化のときの繭も天敵に対する噴射物と同様に後腸の開口部から出る.繭と噴射物の化学成分の比較が今後の課題である.


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