| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-120  (Poster presentation)

山村におけるトビの採餌場所と屍肉利用様式
Foraging habitat and carrion utilization of black kite in a mountain village

*宮島尚也, 梶村恒(名古屋大・生命農)
*Naoya MIYAJIMA, Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

 スカベンジング (scavenging)は、多くの動物種で見られる摂食行動であり、重要な生態系サービスである。例えば、屍体 (屍肉)は放置されて腐敗が進行すると、病原菌や寄生虫の繁殖源となる。鳥類はその発見率が高く、他の脊椎動物よりも屍肉の除去に貢献していると考えられている。しかし、種ごとのスカベンジ能力や、異なる環境でのスカベンジ効率等には不明な点が多い。
 本研究では、トビがどのように屍肉を利用するのかを明らかにするために、愛知県北東部の山村地域で、①採餌場所の選好性と採餌メニュー、②腐敗した屍肉の利用可能性、③屍肉をめぐる他の脊椎動物との関係を調べた。①は、ルートセンサスによって季節ごとに採餌場所の利用頻度を算出して評価した。また、草地での草刈り後に出現する小動物の屍体を直接観察し、採餌メニューかどうかを確認した。②は、草地内の餌台に、腐敗を進行させた冷凍マウスを供試し、ビデオ映像の採餌順位に基づいて判定した。③は、草地と林地の地表面に冷凍マウスをそのまま設置し、自動撮影カメラを用いて長時間モニタリングすることで検証した。
 その結果、トビは夏季・秋季に草地を選好し、草刈り後に大量出現したエンマコオロギ、トノサマガエルの屍体を数時間以内に採餌することが明らかになった。つまり、人間活動とリンクした採餌場所で、速やかに屍肉を除去すると考えられる。供試実験では、腐敗した状態のマウスでも100%採餌された。したがって、腐敗による屍肉の利用可能性の低下は起こらず、病原菌や寄生虫が繁殖していても、スカベンジ能力は高いと予想される。また、トビによる屍肉の採餌は林地では見られず、閉鎖環境への侵入が困難であることが実証された。一方、草地での屍肉設置から採餌までにかかった時間は平均2.5時間であり、哺乳類 (キツネ)に比べて、非常にスピーディに屍肉を除去した。


日本生態学会