| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-153  (Poster presentation)

産地の積雪量・降霜頻度の違いはブナのフェノロジーに影響するか
Do provenances with different snow depth and frost regimes affect leaf phenology of beech(Fagus crenata) seedlings?

*高木広陽, 石田清(弘前大学)
*Hiroya TAKAGI, Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

 北日本では気候変動に伴って積雪量が減少すると予想されている。極圏や高山植生において多量の積雪は植物のフェノロジーや霜害リスクを規定する要因であり、世界的にみても多雪な地域である日本海側の山地でも同様に積雪量の減少がもたらす影響は大きいと考えられるが、その点についてはあまり検討されていない。
 本研究では、青森県中央部に位置する八甲田連峰内の積雪量や降霜頻度の異なる4調査地点においてブナ(Fagus crenata)の稚樹を用いた相互移植実験を行い、積雪や降霜といった環境要因が葉フェノロジーにどのように作用しているのか調査した。2018年秋に採取したブナ種子を相互移植的に播種し、その後2年間にわたり稚樹の葉フェノロジーを観察した。この観察データから、ブナの葉フェノロジーの集団間変異に対して環境要因と遺伝的要因がどの程度寄与しているのか考察した。
 春先の開葉フェノロジーについてみると、雪解けの遅い地点ではその分発芽や開芽が遅れ、多量の積雪が開葉フェノロジーを制限していることが示唆された。秋の黄葉フェノロジーでは、地点間の差よりも種子の産地間による差の方が大きく、より冷涼で降霜頻度の高い産地に由来する個体で黄葉が早くなる傾向が見られた。このことは、秋の低温による早霜害や光阻害を避けるために黄葉時期を早める戦略がある可能性を示唆している。
 以上の結果から、多雪山地におけるブナ稚樹の開葉フェノロジーの集団間変異には積雪という環境要因が強く影響している一方、黄葉フェノロジーの集団間変異には環境要因よりも遺伝的要因の寄与が大きいことが示唆された。しかし、気候変動に伴って雪解け時期が早期化していくと、開葉フェノロジーに対する遺伝的要因の影響が表れてくる可能性もあり、積雪と稚樹の葉フェノロジーの関係についてより長期的に観測していく必要があるだろう。


日本生態学会