| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-234  (Poster presentation)

亜高山帯老齢林における森林動態への撹乱レガシーの影響:40年間の長期観測データから
The effects of disturbance legacies on forest dynamics in late-successional subalpine forests

*鈴木紅葉(横国大), 北川涼(森林総研), 小出大(国環研), 森章(横国大)
*Kureha SUZUKI(Yokohama National Univ.), Ryo KITAGAWA(FFPRI), Dai KOIDE(NIES), Akira S MORI(Yokohama National Univ.)

 森林生態系は、撹乱によって絶えず変動している。大規模な撹乱を欠いた老齢林においても、耐陰性の高い遷移後期種の定着・更新に対するギャップ形成の重要性が指摘されている。このように、撹乱が果たす役割は、一見撹乱に依存していない種の個体群維持に対しても大きいことがわかってきた。また、過去の大規模撹乱は、枯死木や岩などの撹乱レガシーとして残存し、森林生態系の組成や構造の変動(森林動態)に長期にわたって影響を与え続ける。しかし、撹乱レガシーが影響する時間スケールやプロセスに関する知見は不足している。そこで本研究では、撹乱レガシーの形成から長期間経過した岐阜県御嶽山県立自然公園内の亜高山帯老齢林を対象に、約40年間の長期観測データを用いて、撹乱レガシーが老齢林の森林動態に及ぼす影響を評価することを目的とした。当地には、約1万年前の噴火と併発した土石流の履歴がある場所(P1)とない場所(PM)がある。
 まず、個体数および胸高断面積における増加率を算出した。次に、群集レベル・主要樹種の個体群レベルでの死亡率および移入率を算出し、撹乱履歴の有無で比較した。その結果、撹乱履歴の有無にかかわらず、上層木の変化が少ない傾向があった。このことから、どちらの森林も立ち枯れなどの単木スケールの撹乱によって維持される安定的な森林であると考えられた。また、群集レベルでは、P1で移入率が死亡率よりも高い傾向にあった。個体群レベルでは、特にコメツガの死亡率がP1で低い傾向にあった。P1では、撹乱レガシーである岩の林床被覆率が高いため、倒木が発生しやすくなり、倒木更新タイプの樹種に好適な環境を創出している可能性が考えられた。このように、安定的に見える老齢林でさえも、太古に起きた撹乱が撹乱レガシーを通じて森林動態に影響を与え続けることが明らかになった。


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