| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-239  (Poster presentation)

X線CT装置を用いたブナにおける潜伏芽と萌芽の関係性の解析
X-ray CT analysis of bud traces inside woods of Fagus crenata for indicating sprouting strategies.

*飯樋玲海(新潟大学・理学部), 本間航介(新潟大学・佐渡セ森)
*Remi IITOI(Niigata Univ. Science), Kousuke HONMA(Niigata Univ.)

Bud traceは潜伏芽が肥大生長に伴って形成層と共に外側に移動していく痕跡であり、追跡することで過去の潜伏芽の動態を観察することができる。本研究では、伐採し潜伏芽の数や形態の経時変化を観察する外部形態調査と、X線CT装置を用いてbud traceを観察する内部調査を行い、潜伏芽の蓄積・維持・消失・リリースの過程を実証的に明らかにすることを目的とし、研究を行った。
新潟大学佐渡自然共生科学センター演習林において、樹齢25-27年のブナを5本用いて調査を行った。6月に高さ2mで伐採を行い、8月から10月に月1回ずつ潜伏芽の外部形態調査を行った。さらに、工業用マイクロフォーカスX線CT装置を用いてブナの断層画像撮影を行い、過去の潜伏芽の動態を調査した。
結果、以下の3つのことが明らかになった。1、外部形態調査で観察された潜伏芽数と地際部の年輪幅から計測した肥大生長の値について解析を行った結果、根元曲がりによる偏芯生長が大きいほど萌芽しにくく、谷側よりも山側で影響を受けやすい。2、同試験地での先行研究(ハリギリ、ホオノキ、アカイタヤ)と比較したところ、ブナの潜伏芽数は少なく、高さ40-100cmに多く貯蔵され、それより上・下では少なくなる。3、地際部で潜伏芽数が少ないことと、生長初期段階に伸長生長が急な増加をすること、伸長生長が増加するところではbud traceの増加が鈍化し、伸長生長の増加が鈍化するところではbud traceが急な増加することより、ブナの雪圧に耐えうる樹体づくりと潜伏芽貯蔵に因果関係がある。ブナは雪圧被害を受けやすい地際付近では潜伏芽貯蔵が少なく、地際部に潜伏芽を貯蔵して攪乱後に株立ち樹形になるのではなく、一本の幹に投資を集中し樹体生長を優先し雪圧に耐えうる樹体を生長初期段階で作ることで多雪地での死亡率を低下させていることが示唆された。


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