| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-280  (Poster presentation)

屋久島照葉樹林の樹種多様性が生産性を安定化させる効果の空間スケール依存性
Spatial scale dependency of productivity stabilizing effects of tree diversity in an evergreen broad-leaved forest

*近藤駿太郎(横浜国大・環境情報), 飯田佳子(森林総研), 新山馨(森林総研), 齊藤哲(森林総研関西支所), 森章(横浜国大・環境情報)
*Shuntaro KONDO(Yokohama National University), Yoshiko IIDA(FFPRI), Kaoru NIIYAMA(FFPRI), Satoshi SAITO(FFPRI Kansai), Akira S MORI(Yokohama National University)

 地域・全球規模で、極端な環境変化が生物多様性の損失を引き起こしている一方で、生態系の維持における生物多様性の重要性も報告されている。昨今の研究では生物多様性が、生態系の機能性を向上させること及び、時間的に安定化させることが観察的・実験的に示されてきた。しかし、この生物多様性と生態系の機能性・時間的安定性における正の関係性は、単一空間の局所群集から得られた知見であり、生物多様性が生態系機能やサービスに与える影響を理解する上で、空間スケールの影響を評価する必要がある。そこで、本研究では屋久島の照葉樹林において、樹種多様性が森林の地上部生産性を時間的に安定化させる効果は、空間スケールによって変化するかを検証した。
 4 ha調査区で測定された1996年から2019年まで計6回分の毎木データを基に、異なる局所群集の空間スケール(100m2, 400m2, 900m2)における樹種多様性と地上部生産性の時間的安定性の関係を評価した。結果として、局所群集の空間スケールが拡大した際に、群集内の樹種組成が変化し、樹種多様性の安定化効果は減少した。特に樹種組成において、小スケール(100m2)では、安定化に高い貢献度を示す樹種(モクタチバナ、サカキ、ヤブツバキなどの優占種)が、空間的にばらつくことで多様性による安定化効果を顕著に示した。対して、大スケール(400m2, 900m2)では、安定化に高い貢献度を示す樹種が、どの局所群集でも含まれることで多様性による安定化効果が見えにくくなったと考えられる。
 これらの結果から、群集の空間スケール拡大により樹種組成が変化し、対象とする空間スケールによって、地上部生産性に対する樹種多様性の安定化効果が異なることが分かった。本研究では、生物多様性保全において生物多様性の効果を検討する場合には、空間スケールを考慮する必要性を示唆した。


日本生態学会