| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-289  (Poster presentation)

山岳湿原における生物地理学的要因・環境要因が植物―送粉昆虫相互作用に与える影響
Effects of Biogeographical and Environmental Factors on the Structure of Plant-Pollinator Network in Alpine Wetlands

*松原夏生(横浜国立大学), 内田圭(東京大学), 佐々木雄大(横浜国立大学)
*Natsuki MATSUBARA(Yokohama National Univ.), Kei UCHIDA(Tokyo Univ.), Takehiro SASAKI(Yokohama National Univ.)

山岳地域の湿原には多様な固有植物や希少植物が生息しており、多くが昆虫に送粉を依存している。結果、植物-送粉昆虫間には複雑な送粉ネットワークが形成される。湿原では限られた面積の中で花が高密度に開花しており、送粉者の重要な資源獲得の場であると考えられる。山岳地域における生物相の変化については、標高傾度に伴った群集内の種のターンオーバーにより送粉ネットワークの構造が変化するといわれている。しかし、これまでの研究では環境変化に伴う種のターンオーバーと、標高に沿った開花フェノロジーのシフトによる送粉者群集への影響が分離できていない可能性がある。そこで、2019年7月と8月に八甲田山の湿原群のうち標高の異なる5湿原の開花状況と送粉者群集を調査し、比較した。その結果、標高に沿った開花フェノロジーの遅延により湿原ごとに花の組成が変化し、それに伴って送粉者の群集構造が変化することが示された。これまでの調査では標高傾度に着目していたが、湿原面積や湿原間の距離、周囲の環境などの景観構成も送粉ネットワーク構造を決定している要因であると考えられる。近年、生息地の分断化や消失が訪花頻度や種数の低下をまねくと注目されているが、その研究の多くは農地や都市など人為影響の強い場所で行われている。本研究では、湿原を主に採餌を行う「patch」と捉える。周囲の森林を、送粉者の移動経路となる「hospitable matrix」、あるいは送粉者の移動障壁となる「inhospitable matrix」の両面の可能性を考える。前者の場合、景観構造や局所環境条件に応じた送粉昆虫相および送粉ネットワークが形成され、後者の場合、湿原の面積など環境収容力に応じた送粉昆虫相および送粉ネットワークが形成されると予測される。また、構成種の花の形質や開花量など、植物による送粉昆虫への効果も考慮する。以上、景観構造、局所環境条件、および植物種の組成・形質が送粉ネットワーク構造をどのように規定するのかを検証する。


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