| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-311  (Poster presentation)

トランスクリプトームからみるブナの傷害及び揮発性化学物質の受容応答
Transcriptome reveals the damaged leaves response in beech

*萩原幹花(京都大学), 塩尻カオリ(龍谷大学), 鹿島誠(龍谷大学, 青山大学), 栗田悠子(龍谷大学), 永野惇(龍谷大学), 石原正恵(京都大学)
*Tomika HAGIWARA(Kyoto University), Kaori SHIOJIRI(Ryukoku University), Makoto KASHIMA(Ryukoku University, Aoyama University), Yuko KURITA(Ryukoku University), Atsushi J NAGANO(Ryukoku University), Masae ISHIHARA(Kyoto University)

昆虫などによって被害を受けた植物からは揮発性化学物質(Volatile Organic Compounds : VOCs)が放出される。そのVOCsを受容した健全な個体では誘導防衛が開始される。これは、VOCsを介した「植物間コミュニケーション」と呼ばれ、その実証の殆どは草本であり、木本では6種しか実証されていない。筆者らは昨年、ブナにおいてVOCsを介した植物間コミュニケーションがあることを報告した。また、個体内における防衛情報伝達経路は体内移行性よりも、VOCsを介した体外移行性が優位であることを明らかにした。筆者らはVOCsを受容した他個体の葉の被害量を90日後に定量しているが、先行研究において実際のVOCsは、傷害を受けた直後から放出されその放出期間は3日間程度と報告されている。つまり、匂いを受容した直後からの受容個体の生理的・遺伝子発現レベルの経時的な変化を解明することが、VOCsに対する植物の防衛応答を明らかにするうえで重要である。また、森林内の樹木は実際の葉の被害量を定量することは困難であるため、防衛に関わる遺伝子を同定、定量することにより、森林内の樹木での防衛応答を明らかにできると考えるが、これまでブナの防衛に関わる遺伝子は明らかにされていない。そこで本研究では、ブナの稚樹を用い防衛に関わる遺伝子の探索と、傷害によるVOCsを受容後の応答を明らかにすることを目的とした。その結果、シロイヌナズナにおけるブナの相同遺伝子の情報をもとにしたGO解析を行ったところ、防衛に関連する植物ホルモンである、ジャスモン酸・サリチル酸の生合成経路に関わる遺伝子が検出された。サリチル酸の生合成に関わる遺伝子ICSは、VOCsを受容した個体で未受容のものよりも3日後に有意に発現量が上昇していた。サリチル酸は植物体全体の抵抗性反応である全身獲得抵抗性(SAR : Systemic acquired resistance)を駆動することが分かっており、そのSARの駆動に関わる遺伝子の発現量の変化も併せて考察する。


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