| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-319  (Poster presentation)

分布拡大における無性生殖の利点:移動性が高いと、繁殖保証より移住荷重の抑制が重要
Increased dispersal changes the main advantage of asexual reproduction in range expansion from reproductive assurance to release from migration load

*佐藤雄亮, 瀧本岳(東京大学)
*Takeaki SATOW, Gaku TAKIMOTO(The University of Tokyo)

有性生物は、組換えによって適応的な遺伝子型を蓄積できるため、無性生物よりも適応が速いと言われている。それにもかかわらず、野外研究では無性生物の地理的分布の方が有性生物より広いことが示されており、まるで無性生物の方が様々な環境への適応が起こりやすいように見える。この矛盾にも見える現象は、繁殖保証と移住荷重の二つの仮説によって説明されてきた。 しかし、この二つの仮説はこれまで別個に扱われており、両者の相対的な関係性については考慮されてこなかった。そのため、本研究では繁殖保証と移住荷重とを同時に組み込んだ個体ベースの分布拡大シミュレーションモデルを構築し、有性生物において移動性が高いほど、繁殖のコストは減少するものの、移住荷重は増加するという仮説を検証した。加えて、突然変異率によって適応速度を変化させ、無性生物において組換えが無いことによる適応速度の低下が分布拡大に及ぼす影響も考慮した。モデル解析の結果、先行研究と整合して、繁殖保証も移住荷重も無性生物の方が有性生物よりも広く分布することに貢献していることが示された。特に移動性が高い場合には、繁殖保証に関して有性―無性間で差がほとんど無い場合でも有性生物の分布のみが狭くなった。これは移動性の増加に伴い移住荷重の影響が大きくなったためと考えられる。無性生物の分布の方がより広くなるパターンが見られやすいのは、突然変異率が高く移動性も高いパラメータ領域であった。一方で、移動性、突然変異率がともに低い場合には、有性生物の分布の方が広くなるパターンが、新たに発見された。これらの結果から、無性生物が有性生物より広く分布する条件として繁殖保証が重要なのか移住荷重が重要なのかは、移動性によって変化することが分かる。加えて、有性生物では低い移住荷重、無性生物では高い突然変異率が広域分布を実現するために必要であり、局所適応が重要であることが示された。


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