| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-322  (Poster presentation)

トンボ科における繁殖戦略の多様化は雌雄の交尾器形態の共進化をもたらしたか?
Have the diversification of mating strategies driven the coevolution of male and female genital morphology in dragonflies (Libellulidae) ?

*渡邊涼太郎, 池田紘士(弘前大学)
*Ryotaro WATANABE, hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

 交尾器の形態は、他の形態と比較して種間の多様性が著しいことから、最も進化速度の速い形態形質といわれている。先行研究から、交尾器の急速な進化を駆動する要因は、精子競争や性的対立などの交尾後の性選択であることが明らかになってきている。これらのメカニズムでは、雌雄が相互に作用することが示唆されており、雌雄両方について研究することが望まれる。しかし、雌の交尾器の進化を研究している例はいまだ多くない。そこで本研究では、雌雄共に特殊化した交尾器を持つトンボ科昆虫に注目した。トンボ科では、雄に精子競争を回避する適応がみられ、角片で精子を掻き出す種から精子を奥に押し込む種など、戦略に多様性があることが明らかにされている。一方で、雌は精子の貯蔵器官である交尾嚢と受精嚢の形態に多様性があることが観察されている。ここから、トンボ科の交尾器形態は雌雄の繁殖戦略の多様化によって相関して進化していると仮説を立て、種間比較解析によって検証した。
 雌雄の交尾器形態が進化的に相関しているかを調べるため、トンボ科28種において、雌の交尾嚢と受精嚢、および雄の射精量と関連する小球と角片を測定し、雌雄の相関を調べた。その結果、受精嚢の大きさと小球の大きさには相関関係がみられ、受精嚢の細長い形状と雄の角片の長さにも相関関係がみられた。このことから、雌の受精嚢は精子競争が強い種では大きく、掻き出しのための角片が長い種では細長い形状に進化していることが明らかになった。また、形質の進化速度を定量化した結果、雄の小球部のみ有意に遅く、雌の2形質は雄の角片と同程度の速さで多様化していることが示唆された。つまり、雌の交尾器は雄の交尾器と同程度かより速く多様化する可能性があると推測された。
 これらを踏まえると、トンボ科の交尾器形態は、雄の戦略の多様化とそれに対応した雌の急速な進化によって共進化的に多様化が起こったと考えられる。


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