| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-334  (Poster presentation)

全ゲノム解析による北海道のヒグマの集団形成史
The demographic history of brown bear Ursus arctos in Hokkaido, Japan based on whole genome sequences

*遠藤優(北海道大学), 長田直樹(北海道大学), 間野勉(北海道立総合研究機構), 増田隆一(北海道大学)
*Yu ENDO(Hokkaido Univ.), Naoki OSADA(Hokkaido Univ.), Tsutomu MANO(Hokkaido Research Organization), Ryuichi MASUDA(Hokkaido Univ.)

北半球に広く分布するヒグマは、地域個体群ごとに集団形成過程が異なり、多様な環境に適応してきたと考えられ、その集団進化や移動の歴史の解明は興味深い課題である。特に北海道のヒグマは、ミトコンドリアDNA分析により、渡来時期の異なる3系統が道南、道央、道東の3地域に異所的に分布することが知られている一方、Y染色体DNA分析ではオスの移動による分集団間の遺伝子流動が示唆されており、複雑な集団形成史をたどったものと考えられる。しかし渡来後の個体群動態や、個体群形成過程におけるゲノム全体にわたる遺伝子流動の影響は不明である。
そこで、ミトコンドリアDNAの各系統が分布する地域から雌雄各1個体、計6個体について全ゲノム解析を行い、先行研究で得られた大陸のヒグマのゲノムデータ18個体分をあわせて集団遺伝学的解析を行い、北海道のヒグマの個体群動態を検討した。
北海道の集団は大陸のヒグマと比較して、遺伝的に大きく異なること、ヨーロッパの絶滅危惧集団よりも高い遺伝的多様性を示すことが明らかとなった。また先行研究において、大陸のヒグマは間氷期 (13〜11.4万年前) に集団サイズが一時的に増加したことが知られているが、北海道集団では同時期の増加は確認されなかった。これらの結果から、北海道のヒグマは一定期間地理的に隔離されたことにより、大陸の集団とは異なる個体群動態の経過をたどり、その遺伝的多様性を維持してきたといえる。
北海道内では、異なるミトコンドリアDNA系統間で同じ遺伝的特徴を共有する一方、個体や分集団による違いも確認された。これらのことから、北海道のヒグマの集団形成には、オスの移動に伴う遺伝子流動が影響を与えている一方、その度合いは個体や分集団によって異なると考えられた。


日本生態学会