| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-347  (Poster presentation)

ブラウントラウトの遺伝構造および集団動態
Genetic structure and demography of introduced populations of brown trout (Salmo trutta) in Japan

*神藤友宏(筑波大院・山岳), 北野聡(長野県・環保研), 佐藤正人(秋田県・水産振興セ), 谷口義則(名城大・人間), Miles PETERSON(Shinshu Univ.), Leanne Kay FAULKS(Sugadaira, MSC, Univ. Tsukuba), 長谷川功(水研機構・水産資源研), 津田吉晃(筑波大・MSC菅平)
*Tomohiro KANDO(Mount Sci, Univ of Tsukuba), Satoshi KITANO(Nagano Env. Cons. Res. Inst.), Masato SATO(Akita Pref.  Insti. of Fish.), Yoshinori TANIGUCHI(Meijo Univ.), Miles PETERSON(Shinshu Univ.), Leanne Kay FAULKS(Sugadaira, MSC, Univ. Tsukuba), Koh HASEGAWA(Japan. Fish. Res.  Educ. Agcy.), Yoshiaki TSUDA(Sugadaira, MSC, Univ. Tsukuba)

外来サケ科魚類のブラウントラウトは水産資源目的で約100年前に初めて日本に導入された。現在も各地で養殖されているが自然水域への流出や私的放流の報告もされている。定着先では強い魚食性、在来種との種間競争、交配などの在来生物相への負の影響があり国際自然保護連合の定める世界の侵略的外来種ワースト100に登録されている。一方、遊漁目的など水産、観光資源としての経済的価値も認識され、水産庁の定める産業管理外来種に指定されている。しかし、外来種としての駆除もしくは資源利用としての管理の基本情報となる現在の分布状況や各地への導入経路、遺伝的多様性などについて不明な点が多い。本研究では国内各地の定着状況の把握、集団遺伝学的な手法を用いた遺伝構造の評価からブラウントラウトの現在の分布実態を明らかにすることを目的とした。生息分布調査ではSNS等のインターネットから分布情報等を収集し、現地での分布調査および採取を行った。これら調査で採取した北海道、東北地方、中部地方などのサンプルについて母性遺伝するミトコンドリアDNAおよび両性遺伝する核DNAを用いて遺伝構造を評価し、さらに日本全国の本魚種の先行研究(Berrebi et al. 2020)の遺伝データに統合した。分布調査では(水産庁2017)で報告されていない定着地域を含め、現在の分布を把握できた。ミトコンドリアDNAのハプロタイプ分布からは長野県上高地から下流地域への分布拡大、北海道での最近の私的放流の拡散の可能性を示唆する結果などが得られた。また、核DNAでは地域集団単位での明確な遺伝構造がみられ、遺伝的浮動、導入されてからの期間の長さによって各地域で特異的な対立遺伝子頻度が形成されたと考えられる。今後、さらに多くの地域で採集および文献情報を収集し、より詳細な拡大経路、分布実態を明らかにし、本種の管理について検討していく。


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