| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-363  (Poster presentation)

天竜川上流域の水路網における水生植物群落の10年間の変化
Change of the aquatic plant communities in during ten years in cannel in the Upper Reaches of the Tenryu River

*高澤隆仁, 大窪久美子(信州大学農学部)
*Ryuji TAKASAWA, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

 近年、在来水生植物の約4割が環境省レッドリストに掲載されており、これらの減少や絶滅が問題となっている。そこで先行研究(大窪・御池2008,御池ほか2011)では、特に二次的自然の流水環境である水路網における水生植物群落の現状を明らかにするため、上伊那地域で調査を実施したところ、希少種を含む代表的な群落型の分布や成立条件が解明された。その後10年が経過し、予備調査において、一部の地区で希少種の消失が確認された。そこで本研究では、10年後の上伊那地域の水生植物群落と立地環境条件との関係性の変化を明らかにすることから、これらの保全策を検討することを目的とした。調査は先行研究が行われた8地区および湧水の卓越する2地区で行った。植生調査は植物社会学的手法を用い出現種の被度を記録し、TWINSPAN解析により群落の分析を行った。立地環境条件として水質および底質、側壁の素材、水路幅、土地利用、水深、流速、標高を記録、測定した。
 植生調査の結果、出現種は66種で、その内、希少な水生植物は7種、外来水生植物は3種だった。10年前との比較では、イトトリゲモが消失した他、ナガエミクリやバイカモ、シャジクモなど複数の種の分布の縮小が確認された。TWINSPAN解析により、現在の群落型は10年前と対応がみられ、本地域の主要な群落の構成に大きな変化は生じていないと考えられた。しかし、10年前にも優占が確認された外来種のコカナダモ群落は依然、本地域で安定して分布していた。立地環境条件には水質や土地利用の変化がみられ、各地区の種の消失との関係性が考えられた。今後、希少な水生植物を保全していくためには、その分布を明らかにし、地域住民や自治体などにその存在や希少性が理解される必要があると考えられた。なお、本研究は(一財)長野県科学振興会の助成を受けたものである。記して感謝の意を表す。


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