| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-367  (Poster presentation)

絶滅危惧植物ホテイアツモリソウ保全のための集団ゲノミクス解析
Population genomics for the conservation of the endangered plant Cypripedium macranthos var. macranthos

*本宮万愛, 廣田峻, 佐藤光彦, 松尾歩, 陶山佳久(東北大学)
*Mana MOTOMIYA, Shun K HIROTA, Mitsuhiko P SATO, Ayumi MATSUO, Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.)

 絶滅危惧種のラン科多年草であるホテイアツモリ(Cypripedium macranthos)と、その変種であるアツモリソウ(var.speciosum)は、園芸目的の盗掘により生育個体数が激減し、環境省や地域組織による厳重な自生地保護等が行われている。長野県の釜無山と入笠山では、この種群の中でも大型で濃い紅紫色の花をもつ、通称“釜無ホテイアツモリソウ”の分布が知られている。現在はわずか30株ほどの自生が確認されているが、その分類学的な位置づけは明らかにされていない。そこで本研究では、それら自生株およびその域外保全である栽培株と、他地域のホテイアツモリおよびアツモリソウ(計65)を対象として集団ゲノミクス解析を行い、それらの遺伝的位置づけを行った。また、個体識別と親子解析を行い、個体レベルでの遺伝的な関係を明らかにした。
MIG-seq法によってゲノム情報を取得し、最尤系統解析と遺伝的集団構造解析を行った結果、“釜無ホテイアツモリソウ”はアツモリソウとは遺伝的に明瞭に異なり、固有性の高い遺伝的組成をもつことがわかった。個体識別と親子解析からは、自生地では株数に比べ個体数が少なく、栽培株では特定の交配による限られた系統の子個体が多くを占めるという実態が明らかになった。以上の結果から、“釜無ホテイアツモリソウ”の固有性を維持・保全することの重要性と、人工交配による増殖を行う場合には、個体間の遺伝的関係を考慮した交配計画の必要性が示された。


日本生態学会