| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-369  (Poster presentation)

シンボル種への指定は人々の生物多様性に対する関心を高めるか?複数国での広域分析
Does the designation of a species as an iconic symbol promote people's interest in biodiversity? A cross-country study

*杉浦由佳, 深野祐也, 吉田薫, 曽我昌史(東京大学)
*Yuka SUGIURA, Yuya FUKANO, Kaoru YOSHIDA, Masashi SOGA(Univ. of Tokyo)

生物に対する一般市民の関心を高め、協力を得ることは、生物多様性保全の主流化において重要である。世界各国の地域単位(国・州・県等)で指定されている「シンボル種」は、地域の人々の種に対する関心を広域スケールで向上させている可能性がある。しかし、この効果を定量的に評価した例はなく、また、生物に対する関心の向上が生物の生息状況に与える効果を検証した研究もない。

そこで本研究では、Google検索量をもとに人々の鳥類種への関心を分析した。まず日本を含む6か国を対象に、(1)「鳥類をシンボル種に指定している地域及びその周辺地域で、人々のその種に対する関心は高いか?」を検証した。さらに、日本国内に限定し(2)「人々の関心の高い鳥類種は、そうでない種と比較して、生息状況が悪化しにくいのか?」に関しても解析した。

(1)の解析の結果、全調査対象国で種の関心はシンボル種指定地域で有意に高く、シンボル種の指定が、文化圏を問わず人々の関心を高める可能性が示された。特に、オーストラリアを除く5か国では、シンボル種指定地域の隣接地域でも人々の関心が高く、シンボル種の効果が広範囲に及ぶ可能性が示された。また、シンボル種の指定が関心に与える効果は、生物分布が持つ効果よりも強かった。続いて(2)の解析の結果、広域に分布する鳥類種では、人々の関心が高いほど生息状況が悪化しにくいことがわかった。しかし全体として、人々の関心と生息状況の変化に有意な関係性は見られなかった。これは、人々の関心の向上が保全行動に直結するわけではないためだと考えられる。

以上の結果から、シンボル種の指定は生物多様性の関心や理解を促進する強力なツールになり得る一方、高まった種への関心を保全行動につなげるには、人々が実際に保全活動に関われる機会も増やす必要があることが示唆された。


日本生態学会