| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-383  (Poster presentation)

環境DNAを用いたバラタナゴ属3種の同時検出系確立と野外適用
Establishment and field application of a simultaneous detection assay for three Rhodeus species using environmental DNA analysis

*木原菜摘, 坂田雅之, 源利文(神戸大学)
*Natsumi KIHARA, Masayuki K. SAKATA, Toshifumi MINAMOTO(Kobe University)

 近年、生物多様性が減少しており、特に淡水生態系ではそれが著しい。絶滅危惧種を保全するためには、低密度であってもその分布を正確に把握する必要がある。岡山県内ではスイゲンゼニタナゴ(Rhodeus atremius suigensis) の自然分布域にカゼトゲタナゴ(R. atremius atremius)とR. notatusが侵入しており、この3種は交雑することもあるため遺伝子汚染の懸念が問題となっている。しかし、3種は形態的な種の同定や目視による確認が困難である。そこで、本研究では岡山県内に生息するバラタナゴ属のスイゲンゼニタナゴ、カゼトゲタナゴ、R. notatusを対象とし、環境DNA手法を用いて3種の同時検出系を開発し、野外サンプルへの適用を行った。
 本研究では、対象3種のDNAを単独プライマー対で同時に増幅し複数のプローブで種の判定をするマルチプレックスプローブ法を用いることとし、プライマーとプローブを設計し、検出系を開発した。その後、分布が既知の野外サンプルで検出系が機能することを確認し、スイゲンゼニタナゴの自然分布域である岡山県内の旭川と吉井川の本流20箇所において採水を行い、環境DNAの検出を試みた。
 開発したマルチプレックスプローブ法によるバラタナゴ属3種の同時検出系では、組織由来DNAを用いたPCR実験によってでは、ターゲットとしている種と他の2種との間で種の判定が可能だった。分布が既知の野外サンプルを用いたPCR実験ではほとんどのサンプルで期待通りの結果が得られた。ただし、いくつかの偽陰性が見られ、手法の改善の余地がある。旭川、吉井川では全20地点で対象3種の環境DNAは検出されなかった。本研究で開発したマルチプレックスプローブ法は目視での確認や形態的な種の同定が難しい複数の対象種を同時に検出でき、明確に区別できる検出系である。今後、この技術を発展させることでスイゲンゼニタナゴだけでなく、他の希少種の保全に役立つだろう。


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