| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-391  (Poster presentation)

環境保全型農業における土壌生物と作物の相互作用が駆動する栄養循環の数理的検討
Theoretical analysis of nutrient cycling driven by interaction between soil organisms and crops in conservation agriculture

*武田結花, 谷内茂雄(京都大学)
*Yuka TAKEDA, Shigeo YACHI(Kyoto Univ.)

 集約農業による農地の劣化を緩和するため、土壌生態学的栄養循環プロセスの視点を農業戦略に導入し、耕起や化学肥料の人為的な投入を削減する環境保全型農業が提案されている。しかし、環境保全型農業において作物の生育が促進される条件は、いまだ十分に解明されていない。そこで、本研究では以下の二つを主要問題として設定し、数理モデルを構築して検討した。(1) 環境保全型農業の特徴である「不耕起栽培」、「有機被覆」によって、土壌有機物 (SOM) の蓄積が促進される場合、それが作物の収量の増加となるための条件の解明。 (2) 耕起や土壌生物の活動によって、土壌有機物の分解が促進されるとき、それが土壌の栄養循環および作物の収量に与える影響の評価。具体的には、Schimel (2003) らの土壌栄養循環モデルを基に、農地土壌生態系における作物と土壌の栄養循環ダイナミクスを記述する理論モデルを開発した。その上で、環境保全型農業を特徴づけるパラメータが土壌の栄養循環及び作物の生育に与える効果を、系の平衡状態の解析とシミュレーションに基づいて評価した。
 まず、土壌有機物と土壌微生物のC/N比の組み合わせが、植物が利用可能な無機窒素量を大きく変化させることを確認した。次に、SOMの蓄積速度と分解速度のいずれが律速段階であるかによって、系が異なる平衡値に収束することが判明した。環境保全型農業では、一般に土壌有機物の分解速度は遅く、蓄積速度は大きい。このとき、ミミズに代表される土壌有機物を直接資源とする土壌動物の働きによって、土壌有機物の分解速度が改善される場合には、土壌有機物が多いほど微生物や作物の収量は増加するという結果になった。
 以上から、環境保全型農業において、土壌生態系の栄養循環プロセスを作物の生育促進に活用するためには、(1) C/N比の低いカバークロップや有機肥料を用いること、(2)ミミズなどの土壌動物が生息する状態を確保することが重要であると示唆された。


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