| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-399  (Poster presentation)

ヒグマの掘り返しは放棄耕作地へのシラカバ実生の定着を促進するのか?
Can brown bear digging facilitate the establishment of a native tree  on an abandoned pastureland:

*富田幹次(北海道大学)
*Kanji TOMITA(Hokkaido Univ.)

生態系再生は、改変・破壊された生態系を元の状態に回復させるためのプロセス全般を指し、森林再生を目的とした植樹といった人間によるアクションが原動力になることが多い。近年、野生生物が原動力となる生態系再生への期待が高まっている。地面を掘り返す哺乳類(ツチブタなど)やビーバーといった生態系エンジニアは、生態系再生に果たす役割が特に強いグループであると期待されているが、実証例は乏しい。この発表では、放棄牧草地で起こったヒグマの掘り返しが、草地から森林への二次遷移を駆動するパイオニア種、シラカバの発芽を促進することを報告する。

調査地の北海道知床世界遺産の森林は、開拓のためにイネ科が優占する牧草地に改変されたが、高度経済成長期にすべての牧草地が放棄された。2018年にヒグマがアリを捕食するために放棄牧草地を大規模に掘り返した。そこで、この牧草地に合計700個のコドラート(0.25 m²)を設置し、掘り返しの有無とシラカバ実生の在不在を2018年と2020年に調べた。
 
掘り返し直後の2018年は全コドラート中0.5%(4/700)しかシラカバ実生が出現しなかったのに対し、2年後の2020年は6.5%(45/700)と、シラカバが出現したコドラート数が13倍になっていた。さらに2020年にシラカバが出現した39/45コドラートが2018年にヒグマに掘り返されており、見つかったシラカバ189本は全て当年生か2年生であった。掘り返しはイネ科の被度を減少させていた。これらの結果は、掘り返しは優占するイネ科を除去し、シラカバの発芽を促進することを示唆する。
 
この研究は生態系エンジニアが森林再生を進める可能性を初めて示した。ヒグマの掘り返しが知床の森林再生に実際に貢献するかどうかは慎重に検討する必要があるが、ほとんどのシラカバが掘り返された場所で見つかったことを踏まえると、ヒグマの掘り返しは放棄牧草地上でのパイオニア樹木の定着を可能にする数少ないプロセスかもしれない。


日本生態学会