| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-407  (Poster presentation)

新治市民の森における鳴く虫の分布と緑地管理との関係
Relationship between distribution of crying insect and green conservation area management in Niiharu green conservation area

*山本拓(明治大学), 倉本宣(明治大学), 吉武美保子(新治里山交流センター)
*Takuma YAMAMOTO(Meiji Univ.), Noboru KURAMOTO(Meiji Univ.), Mihoko YOSHITAKE(Niiharu Satoyama kouryu center)

 近年都市域では、緑地環境の消失や分断化によって動植物の生息地が失われつつあり、バッタ目の鳴く虫(以下、鳴く虫)もその減少が報告されている。都市域では市民の森のような都市近郊の緑地が貴重な生息地となっており、鳴く虫の保全のためにはこうした場所での生息実態を把握することが重要である。そのため、本研究では鳴く虫を対象として、都市近郊の緑地における鳴く虫の分布と植生や土地利用、植生管理との関係を明らかにし、鳴く虫の保全のための緑地管理の一助とすることを目的とする。
 本研究では、新治市民の森を調査地とし、鳴く虫全体の分布調査と近年減少の著しいクツワムシの個体数調査の2つの調査を行った。
 鳴く虫全体の分布調査の結果、緑地内では農地や草地で多くの種が見られ、畑地や水田は区画内の種数も多かった。一方で、放棄された農地では乾燥を好む種の平均観察回数が減少しており、耕作されている農地の存在が鳴く虫の多様性にとって重要であることが示唆された。また、草地については草刈りの有無によって乾燥を好む種の平均観察回数に差が見られた。さらに、草刈りがされていても草丈が高い草地と低い草地ではカンタン等の平均観察回数に差が見られ、草地では人の手の加わり方によって保全される鳴く虫種が変わることが示唆された。
 クツワムシ個体数調査の結果、相対的に個体数が多かった地点は、食草のある林縁の草地や林内の放棄農地であった。しかし、そうした地点と隣接していても、出現時期に下草が刈られていた地点では見られなかった。一方で、出現ピークを過ぎた頃に草刈りが行われていた地点では相対的に個体数が多かった。また、上記の放棄農地では、5年前に耕作が行われていた。そのため、クツワムシの保全には全く人の手が加わらないことよりも、耕作などの攪乱からの遷移や、出現時期に配慮した草刈りによって林縁の草地が維持されることが重要であると示唆された。


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