| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-064  (Poster presentation)

カシノナガキクイムシの飛翔距離決定要因 【B】
Causes of high variation in flight distance of the ambrosia beetle Platypus quercivorus 【B】

*山﨑理正(京都大学), PHAMDuy Long(京都大学), 伊東康人(兵庫農技総セ), 岡田龍一(神戸大学), 池野英利(兵庫県立大学)
*Michimasa YAMASAKI(Kyoto Univ.), Duy Long PHAM(Kyoto Univ.), Yasuto ITO(Hyogo Prefect.), Ryuichi OKADA(Kobe Univ.), Hidetoshi IKENO(Univ. Hyogo)

樹皮下穿孔性キクイムシや養菌性キクイムシは、大発生時に森林に甚大な被害をもたらす。被害はキクイムシの移動分散によって拡大するので、その飛翔特性は被害防除の上で重要な知見である。過去の研究によりキクイムシの飛翔距離には大きなばらつきが認められているが、その要因の解析は単回帰分析によるものが多い。本研究では、病原菌を媒介することで日本各地でナラ枯れを引き起こしているカシノナガキクイムシを材料とし、飛翔距離にみられるばらつきの要因を明らかにすることを目的とした。194頭のカシノナガキクイムシについて体重を測定し、昆虫の飛翔を室内でシミュレーションするフライトミルを用いて飛翔データを取得し、構造方程式モデリングを用いて、キクイムシの雌雄・体重・飛翔速度(初速)・飛翔時間が、飛翔距離に及ぼす直接効果と間接効果を調べた。
フライトミルにおけるカシノナガキクイムシの飛翔距離は0.1~29.2kmの範囲でばらついていた。性差は体重にだけ認められ、飛翔速度・飛翔時間・飛翔距離には性差が認められなかった。また、体重の増加による飛翔速度の上昇が認められ、翅や飛翔筋への投資量が多い個体が速く飛んでいることが示唆された。飛翔時間の増加には体重増加の直接及び間接効果と飛翔速度上昇の直接効果が認められ、体重と速度の効果は同程度で、脂肪含量が高くエネルギーの多い個体が長時間飛翔を持続し、翅や飛翔筋への投資量が多い個体が初速を上げることで飛翔時間を稼いでいることが示唆された。飛翔距離の増大には飛翔速度上昇の直接及び間接効果と飛翔時間増加の直接効果が認められ、時間の効果の方が速度の効果より大きく、飛翔距離は主に飛翔時間によって、次いで飛翔速度によって決まっていることが示唆された。以上より、体重に見られる性差が飛翔速度と飛翔時間の変化を通して飛翔距離に及ぼすカスケード効果が、カシノナガキクイムシの飛翔距離にみられる大きなばらつきの要因であることが示唆された。


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