| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-093  (Poster presentation)

雌雄異株植物コウライテンナンショウの繁殖成功に及ぼす雌雄間の送粉者の移動パターン
Migration patterns of pollinators between males and females on reproductive success of the dioecious plant, Arisaema peninsulae

*Yuka YOSHIZAKI, Sora TAKAHASHI, Masashi OHARA(Hokkaido Univ.)

 雌雄異株植物は雄株と雌株が別個体として生育するため、種子繁殖を行うには雄株から雌株へと個体間で花粉の移動が必要不可欠である。サトイモ科テンナンショウ属のコウライテンナンショウ (Arisaema peninsulae) は雌雄異株植物であり、雄株、雌株共に仏炎苞とよばれる苞葉に包まれた花序を形成する。本種の送粉は双翅目のキノコバエが担っており、キノコバエは花序先端から放たれるにおいに誘引されて仏炎苞内に侵入し、訪花するとされている。仏炎苞は10 cm 程度の筒状のトラップ構造となっており、訪花したキノコバエは仏炎苞内に閉じ込められる。しかし、雄株の仏炎苞下部には穴が存在し、雄花の花粉を付けたキノコバエは脱出が可能である。一方、雌株には穴が存在せず、侵入したキノコバエは仏炎苞内に閉じ込められ、脱出できない。よって、コウライテンナンショウが種子繁殖を成功させるには、キノコバエが必ず雌株より先に雄株に訪花する必要がある。このように訪花順序に制約がある中で、雄株から雌株へのキノコバエの移動が成り立つ仕組みは、明らかになっていない。そこで本研究では“におい”がキノコバエの誘引に関与している点に着目し、コウライテンナンショウの雌雄個体間での“におい”の違いとキノコバエの訪花パターンの関係を明らかにすることを目的とした。
 調査は北海道石狩市内の防風林林床に生育するコウライテンナンショウ集団において実施した。開花期 (5月下旬~6月上旬) の雌雄計32個体のにおいを日・時間帯を変えて捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC/MS) でにおいの化学物質の分析を行った。分析結果から13種類の物質が得られた。そのうち、同じ物質でも1日のうち、雌雄で放出される時間が異なるケースが確認された。例えば、BHT、Decaneは雄株で放出された後、雌株で放出されていた。このことから時間帯によるにおいの変化により、雄株から雌株へとキノコバエの移動が促されている可能性があることが示唆された。


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