| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-104  (Poster presentation)

低酸素環境下におけるイネ科水生植物の呼吸代謝
Respiratory metabolism in wetland plants (Gramineae) under hypoxic conditions

*中村元香, 中村隆俊(東京農業大学)
*Motoka NAKAMURA, Takatoshi NAKAMURA(Tokyo Agriculture Univ.)

 酸素欠乏時の植物は、一般に好気呼吸の低下でATP産生量が下がる。さらに、無酸素時には、好気呼吸が完全に阻害され、植物は解糖による低いATP産生に依存する。また、酸素欠乏時の植物は、細胞の酸性化やNADH(還元当量)の蓄積で生成されるROSにより細胞や組織を損傷する。そのため、冠水などで根やシュートの酸素が欠乏すると、ATP不足やROSによる損傷で生体維持や成長が困難になる。一方、湛水土壌に生育する水生植物は、陸生植物に比べて長期的な酸素欠乏下でも生育できる。その要因としては、酸素欠乏部位への酸素供給機能の発達やNADH酸化のための高い嫌気・好気呼吸応答、ミトコンドリア電子伝達系での還元当量の散逸(ROS発生の抑制)の重要性が指摘されている。そこで、本研究は、好気下と低酸素下における呼吸応答と酸素供給のための形態的特性を比較することで、水生植物の酸素欠乏に対するATP産生維持のための戦略応答を明らかにすることを目的とした。
 イネ科水生植物(ヨシ、深水稲)を好気下と低酸素下で栽培し、ATP産生量やシュートと根の成長・形態の可塑性、解糖系やTCA回路の主要な酵素の活性量、還元当量の散逸に関わるミトコンドリア電子伝達系タンパク質(AOX)の活性を測定した。その結果、両種は両条件間で解糖系やTCA回路の主要酵素の活性に大きな違いがみられず、酸素欠乏下でも好気呼吸を高く維持できていた。そのため、植物体あたりのATP産生量は条件間で違いがなく、また、AOX活性も同程度だった。しかし、根とシュートにおけるATP産生速度は両条件間で異なり、低酸素下では根に対してシュートでの産生量が増えた。また、形態にも条件間で違いがみられ、低酸素下ではシュート/根比が高く、また、不定根や側根の数が多く短い冠根を形成した。これらの結果から、水生植物は、酸素供給を高める高い形態的可塑性を持つことで酸素欠乏時にも高いATP産生を維持していると考えられた。


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