| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-209  (Poster presentation)

全ゲノム比較解析によるミジンコ2系統の侵入時期の推定と蓄積突然変異の相違性
Invasion age and accumulated mutation heterogeneity of two Daphnia pulex lineages in Japan revealed by whole genome comparative analysis

*大槻朝, 牧野能士, 牧野渡, 占部城太郎(東北大学)
*Hajime OHTSUKI, Takashi MAKINO, Wataru MAKINO, Jotaro URABE(Tohoku Univ.)

日本には北米の集団が起源と考えられる4系統の絶対単為生殖型ミジンコDaphnia pulexが分布している。このうちJPN1系統やJPN2系統では系統内にいくつかの遺伝子型が存在し、日本侵入後にそのゲノム中に変異を蓄積してきたものと考えられる。これら各系統の遺伝子型間では、すでに生活史形質に違いのあることが明らかにされている。そこで本研究では、遺伝子レベルでの違いを把握するために、JPN1・2系統12遺伝子型を含む18遺伝子型を対象にNGSにより約135Mbpの塩基配列を調べ、ミジンコ全ゲノム情報を利用したマッピング、SNPsおよび変異遺伝子の検出を行った。また、塩基置換率を算出し、JPN1およびJPN2の侵入時期を推定するとともに、アミノ酸コード領域における塩基置換率の比較を行った。その結果、日本への侵入時期は、日本での分布範囲がもっとも広いJPN1は約150年前から850年前、東日本に主に分布するJPN2は約125年前から620年前と推定された。系統内の各遺伝子型間における非同義置換/同義置換の値はJPN1よりもJPN2でやや高い傾向があった。このことは「分子進化のほぼ中立論」の予測とよく一致する。つまり、JPN2は日本での歴史が浅く分布範囲が狭く集団サイズが小さいため遺伝的浮動の効果は比較的大きいが、それより先に侵入して広い分布範囲を持つJPN1は負の選択により非同義置換がより飽和に近い状態にあるという解釈である。ただし、後から侵入したと考えられるJPN2遺伝子型の持つ変異は、既に分布を広げていたJPN1遺伝子型と競争を回避する形質をもつ遺伝子が選択されている可能性もある。


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