| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-239  (Poster presentation)

絶滅の負債を抱えた草原性植物の過去10年間の変化
Change of grassland species holding extinction debts over the past 10 years

*小柳知代(東京学芸大学), 小山明日香(森林総研)
*Tomoyo KOYANAGI(Tokyo Gakugei University), Asuka KOYAMA(FFPRI)

平野部の半自然草地は、開発や管理放棄に伴う樹林化により減少の一途をたどっている。土地利用の変化に伴う生物の応答にはタイムラグがあり、生息地が消失した後に群集が新しい平衡状態に達するまでに減少する種数のこと、または絶滅が景観の変化に対して遅れて生じることを絶滅の負債(extinction debt)という。本研究では、既往研究で草原性植物が絶滅の負債を抱えていることが指摘された地域を対象として、過去10年間の分布変化を調査することで、草原性植物の消失の実態とその要因を検証した。対象地は、茨城県のつくば市および牛久市に位置する筑波稲敷台地であり、かつての半自然草地や松林に由来する樹林地の林縁沿いに草原性植物が分布している。2007~2009年にこうした樹林地の林縁や林内で植生調査を行った結果をもとに、当時草原性植物が複数種分布していた地点を抽出し、2020年に同様の手法で植生調査を実施した。その結果、対象とした52地点のうち11地点は開発に伴い既に消失していた。2020年時点で残存していた41地点について、林縁や林内での草原性植物の分布状況を約10年前と比較した結果、草原性植物の地点平均種数は有意に低下していた。代表的な草原性植物のうち、アキカラマツは出現地点数の減少幅が小さく過去と現在の出現頻度や被度に有意差が見られなかったものの、ワレモコウやツリガネニンジンは出現地点数が大幅に減少していた。またワレモコウは出現頻度や被度が過去10年間で有意に減少していた。地点ごとの草原性植物の減少率と周辺の景観変化(1880年代から2010年代までの草地+森林の減少率)との関係を検証した結果からは、いずれの年代とも有意な関係性は認められなかった。対象地では、絶滅の負債による効果のみならず、開発や管理放棄等による負の影響が更に拡大したことで、草原性植物の消失が加速していると考えられ、より詳細な生育環境の変化による影響を検証する必要がある。


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