| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-253  (Poster presentation)

アマミノクロウサギにおける先天的な椎骨形態異常の報告と集団遺伝学的解析
Reports on the congenital abnormalities of the vertebral morphology and population genetic analysis in Amami rabbit

*郡司芽久(筑波大学), 吉川夏彦(慶應大学), 杉田典正(国立科学博物館)
*Megu GUNJI(University of Tsukuba), Natsuhiko YOSHIKAWA(Keio University), Norimasa SUGITA(Natl. Mus. of Nat Sci, Tokyo)

遺伝的多様性の低下に伴う近親交配は、多種多様な分類群で形態学的奇形を引き起こすことが知られており、様々な家畜や実験動物で、近親交配によって脊柱に先天的な形態形成異常が生じやすくなることが報告されている。脊柱の形態異常は、運動能力に直接影響を与え、特に天敵となる捕食動物の存在下では適応度を大きく低下させる可能性があり、保全上大きな問題となりうる。しかしながら、野生種における脊柱の形態形成異常の報告は極めて少ない。そこで本研究は、奄美大島・徳之島のみに生息する固有種であるアマミノクロウサギ(Pentalagus furnessi)に着目した。本種は、移入種の影響を受けて1990年代中盤には個体数・生息域が減少したが、移入種駆除事業の開始に伴い、近年生息数の回復が報告されている。本発表では、脊柱の形態異常の症例報告を行うとともに、マイクロサテライト(SSR)解析を行い、脊柱の形態形成異常と遺伝的多様性との関連性を評価した。
まず、本種の骨格標本249個体を調べたところ、38個体(15%)で先天的と思われる椎骨の形態異常が確認された。このうち23個体は、遺伝的多様性の低下によって発生率が上昇することが多数の動物種で指摘されている腰仙部の形態異常であった。野生のノウサギの骨格標本でも同様の観察を行った結果、形態異常を示したのは53個体中2個体であり、ノウサギに比べて本種の奇形個体の出現頻度は有意に高かった。奄美大島北部集団では22個体中3個体、奄美大島南部集団では160個体中26個体、徳之島では25個体中3個体が奇形をもつことが確認された。成体と幼体で、奇形個体の比率に有意な差は見られなかった。
次にSSRマーカー17遺伝子座を新規に開発するとともに、骨格標本と組織サンプルが同時に保管されていた227個体についてジェノタイピングを行い、地域集団ごと遺伝的多様性を評価した。本発表では、集団の遺伝的多様性と形態形成異常個体の出現頻度の関係性を議論する。


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