| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S07-5  (Presentation in Symposium)

虫こぶ形成者による植物の多様な加工:虫こぶ形成のメカニズムおよび適応的意義
Host plant manipulation by gall-inducing insects: diversity of galls, adaptive significance for inducers, and mechanism of gall inductio

*徳田誠(佐賀大・農)
*Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

 植食性昆虫の中には、植物組織を単に食べるだけでなく、組織や器官を様々に改変して利用するものが知られている。虫こぶ(ゴール、虫えい)形成者はその典型である。虫こぶの形状は、一般に形成者により特異的であり、植物に形成された昆虫の「延長された表現型」と言える。虫こぶ形成性は、昆虫の進化の過程において、様々な分類群で独立に獲得されており、タマバエやタマバチ、アブラムシなど、様々な分類群で知られる。また、虫こぶ形成は、ごく一部の例外を除き、昆虫側に一方的に利益があり、植物側には不利益しかないことが知られており、昆虫の植物に対する寄生的な適応の結果生じた産物と考えられている。
 昆虫にとっての虫こぶ形成の適応的意義に関しては、微環境説、天敵回避説など、いくつかの仮説が提唱されているが、もっとも広く支持されているのは栄養仮説(植物からの栄養源の効率的搾取)である。
 虫こぶ形成のメカニズムに関しては未解明の点も多いが、以前から昆虫から注入される植物ホルモン様物質が重要な役割を担っていることが指摘されており、演者らの研究により、虫こぶ形成性のハバチなど、少なくとも一部の昆虫類は体内で植物ホルモンあるいはその前駆物質を合成する能力があることが明らかになってきている。昆虫における植物ホルモン合成能の獲得の起源、および、合成能の獲得が虫こぶ形成性や植食性の進化に果たした役割を推察するため、様々な陸生節足動物におけるオーキシン(IAA)とサイトカイニン(CKs)の内生量を分析した。その結果、IAAは分析したすべての陸生節足動物分類群において確認されたのに対し、CKsは昆虫綱では一部の分類群でのみ確認された。また、CKsの内生量は、植食性や虫こぶ形成性昆虫で有意に高く、合成能の獲得がゴール形成性の進化と関連している可能性が考えられた。
 本発表では、これらの知見を含めた虫こぶ形成のメカニズムおよび適応的意義に関して紹介したい。


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