| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W09-2  (Workshop)

2種間競争が木材腐朽菌による材分解に与える影響
Effects of fungal interspecific competition on wood decomposition

*深澤遊(カーディフ大学, 東北大学)
*Yu FUKASAWA(Cardiff Univ., Tohoku Univ.)

理論的には、菌種間競争にかかるエネルギーコストは、菌類による木材の分解を促進する可能性も、阻害する可能性もある。競争にエネルギーを取られ分解酵素の生産にエネルギーが回せない場合は分解が阻害されると予想できるが、エネルギーを補うために分解を活性化させることも考えられる。どちらになるかは、菌糸体が利用可能なエネルギー量や菌類の資源利用様式によるだろう。本研究では、菌糸体が定着している木材の大きさが菌種間競争と材分解に与える影響をミクロコズム実験により調べた。菌種は、木材の成分のうちリグニンとホロセルロースを同時に分解する白色腐朽菌3種(ニガクリタケ、カワラタケ、シロペンキタケ)と、リグニンを分解せずホロセルロースのみ分解する褐色腐朽菌3種(イドタケ、ツガサルノコシカケ、アイカワタケ)を用い、これらを定着させたブナの角材(1辺2cmの立方体)同士を密着させて培養することで、菌種間競争を再現した。白色vs.褐色の計9ペアの組み合わせに、それぞれ白色と褐色の材体積の割合は4:0、3:1、2:2、1:3、0:4の5段階用意した。培養は20˚C暗黒下で3ヶ月間行った。培養後、角材から菌類を培地上に再分離して菌種間競争の勝敗を判定するとともに、角材の密度減少率を調べた。結果、大きな材体積を占めていた菌糸体ほど競争に勝つ傾向が見られた。また、材体積が小さいほど材の密度減少率は大きく、利用可能な材が少ないほど競争が分解を促進する可能性が示唆された。一方、他種との相互作用部分ではコロニー後方に比べ材の密度減少率が小さくなる場合があった。菌種間競争が材分解に与える影響において、白色腐朽菌と褐色腐朽菌で大きな違いは見られなかった。以上から、2菌種間の競争は材分解を促進する可能性があるが、相互作用部分では分解が阻害されるため、全体としては競争が分解に与える影響は不明瞭だった。


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