| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W15-4  (Workshop)

生物多様性の保全と持続可能な利用を実現するためのわが国の課題
Issues on the policies for conservation and sustainable use of biodiversity in Japan.

*大沼あゆみ(慶応義塾大学)
*Ayumi ONUMA(Keio Univ.)

社会変革に向けては、直接要因に影響を与える間接要因に対し、有効な介入点を通じて施策を実施することが重要である。そのために、生物多様性の損失と生態系サービスの劣化の状態を的確に把握するとともに、施策の効果を適切に評価し、その結果として生じる社会生態系の変化を政策にフィードバックする仕組みの構築が重要である。取組の実施に際しては、多様なセクターをこのPDCAサイクルに包摂し、あらゆる関係者が一丸となって生物多様性の回復に向けた行動を起こすことが必要である。
 社会変革に向けては、幅広い直接要因に影響を与えていると考えられる「産業構造の変化」、「人々の自然に対する関心」、「生産と消費」に対して、有効な介入点を通じた施策としてビジネスと生物多様性の好循環を形成することが必要である。また、それを支える教育や価値観の醸成促進を通じて、直接要因への対処全体を底上げするとともに、4つの危機それぞれに対して特に影響を与えている間接要因を特定し、効果的な取組を実施することも必要である。さらに、生物多様性・生態系サービスを人間の社会・経済活動の基盤として捉えなおすことも重要であり、「自然を基盤とする解決策(NbS: Nature-based Solutions)」の考え方をSDGsを含む社会課題全般への対処に取り込むとともに、社会課題と自然資本の持続的な利用との間にあるシナジーやトレードオフを明確化・両立化していくことが求められる。
 これらを実現するためには、生物多様性・生態系サービスの状態等に関する基盤データの整備を進めることに加え、より効果的な政策立案に向けて直接要因-間接要因-介入点-施策の関係性や、取組の効果等を定量的に明らかにする調査研究を充実させることが重要となる。さらに、科学的知見に基づいた政策・施策の立案や順応的なPDCAサイクルの構築、多様なセクターの横断的かつ有的な連携通じて、取組の効果を最大化させ、社会変革の早期実現に繋げることが肝要である。


日本生態学会