| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W19-1  (Workshop)

関東地方におけるスクミリンゴガイの現状
Current status of Pomace canaliculata in the Kanto region

*伊藤健二(農業環境変動研究セ)
*Kenji ITO(NARO/NIAES)

関東地方におけるスクミリンゴガイの状況を概観するために、スクミリンゴガイ、ジャンボタニシなどのキーワードを対象に文献調査を行い、本種の定着と拡大に関する情報を収集した。更に、本種の分布北限地域での個体群維持過程を検討するため、茨城県の霞ヶ浦周辺のスクミリンゴガイを対象とした調査の結果を報告する。
 関東地方における本種の野生化は1980年年代後半から栃木県や千葉県などで報告されている。これらの自治体では初期の野生化が複数の地点で報告されており、養殖を介在した同時多発的な定着が起こったことが伺える。侵入当初から分布や被害が限定的にとどまる自治体もあるが、一部の自治体では生息範囲の拡大と密度増加が起こり、被害も顕在化するようになった。千葉県では1986年に水田への侵入が確認されたが、論文発表当時の発生面積は43haにすぎなかった(廣田・大木1989)。しかし、2009年には発生面積が9009haまで拡大(松下 2015)、2020年には水田での発生地点率が19.3%まで増加している(千葉県 令和2年度病害虫発生情報第1号)。
 分布北限と考えられる茨城県霞ヶ浦周辺の水田地帯の個体群を調査したところ、この集団は(1)夏-秋季には水田・水路ともに生息し、一時的に分布が拡大するが(2)冬季は水田で越冬できず、一部の水路でのみ越冬することが示された(Ito 2002)。霞ヶ浦周辺には複数の生息地が確認されているが、新たな集団の形成や局地的な絶滅と思われる事例が確認されている(伊藤ら 未発表)。分布北限付近のスクミリンゴガイは、移動分散した個体が越冬可能な生息地に到達することによる分布の拡大と、局地的な減少や絶滅を繰り返すメタ個体群構造によって維持されている可能性がある。


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