| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) D05-03  (Oral presentation)

標高の異なるバイケイソウ集団における一斉開花周期の決定要因
The determinant factors of the mast flowering periodicity in Veratrum album populations at different elevations

*伊藤陽平, 工藤岳(北海道大学)
*Yohei ITO, Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

 一斉開花・結実現象(以下一斉開花)は、花や種子の大量生産が同一集団内の多くの個体で数年間隔で同調して起こる現象である。一斉開花の発生は、資源収支と環境トリガーによって制御されていると予測される。つまり、植物の貯蔵資源量が繁殖に必要な閾値に達するまでの年数で最短の繁殖周期性が生じ、ある環境シグナルをトリガーに花芽形成が起こることで個体間の開花が同調する。同種内では類似した一斉開花特性を有する事例が多く報告されているが、異質な環境に分布する個体群間では内的・外的条件が異なり、一斉開花の周期性や同調性に種内変異が生じている可能性がある。
 バイケイソウ(シュロソウ科)個体群は、数年間隔で一斉開花が起こる。冷温帯の幅広い標高域に分布しており、低地個体群(約5年間隔)と高山個体群(約2年間隔)では一斉開花の周期が異なるとの報告がある。根茎の成長痕から過去10年前後の開花履歴を追跡できる為、個体レベルの開花間隔を単年度の調査で把握できる。本研究では、標高の異なるバイケイソウ個体群での一斉開花周期の決定要因の解明を目的として、周期性と資源収支の関係を個体群間で比較した。
 調査は2019〜2021年に北海道の低地・高山各6個体群で行った。各個体群で繁殖個体割合を記録し、根茎の成長痕から開花間隔を計測した。繁殖個体の乾燥重量から繁殖への資源投資量を測定し、生育期間の日射量・光合成活性等から年間の炭素固定量を推定した。
 調査した3年間では、高山個体群は低地個体群よりも高頻度に一斉開花が発生しており、高山個体の開花間隔は低地個体より短かった。また、高山個体は低地個体よりも繁殖個体の乾燥重量が小さかった一方で、年間炭素固定量は高かった。以上の結果から、高山個体群は低地個体群に比べ、繁殖に必要な資源量を短期間で蓄積できる為、一斉開花周期が短くなっていると推察された。


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