| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) D05-06  (Oral presentation)

温暖化に伴う開花フェノロジーシフト:開花遺伝子発現パターンの温帯・亜熱帯間比較
Global warming causes flowering phenology shift: a comparison of flowering gene expression patterns between the temperate and subtropical zones

*幸元秀行(九州大学), 秦有輝(東北大学), 経塚淳子(東北大学), 梶田結衣(琉球大学), 遠山弘法(国立環境研究所), 永濱藍(九州大学), 佐竹暁子(九州大学)
*Hideyuki KOMOTO(Kyushu Univ.), Yuki HATA(Tohoku Univ.), Junko KYOZUKA(Tohoku Univ.), Yui KAJITA(Ryukyu Univ.), Hironori TOYAMA(NIES), Ai NAGAHAMA(Kyushu Univ.), Akiko SATAKE(Kyushu Univ.)

温暖化は、海水面の上昇や異常気象の増加など生物を取り巻く環境に影響を与えるだけではなく、生息分布域やフェノロジー(生物季節)の変化など生物そのものに影響を与える。フェノロジーの一つである植物の開花時期は、遺伝子レベルで制御されており、温暖化による影響を大きく受ける。シロイヌナズナの近縁種であるハクサンハタザオでは、春化(長期間の低温により花芽形成が促されること)に関わる鍵遺伝子を用いた遺伝性制御モデルを用いて、温暖化に伴う開花期間の短縮や消失が予測されている。
 一方で、植物は低温だけではなく、光やホルモンなど様々な要因に対する応答によって開花する。しかし自然環境下において、それらの応答は温度上昇によって変化するのか、そしてその変化は開花フェノロジーに影響を与えるのかは不明である。そこで、函館集団のハクサンハタザオを温帯から亜熱帯に位置する仙台、福岡、西表島の3地点に移植して、開花時期の観測と網羅的遺伝子発現解析を行うことで、以前の予測の妥当性と、どの遺伝子の発現が温度上昇により変化し、開花フェノロジーに影響を与えるのか検証した。
 遺伝子制御モデルによって予測された通り、観測から、移植先における開花期間は仙台よりも温暖な福岡では短縮し、最も温暖な西表島では開花が失われていることがわかった。さらに、移植先の3地点間における温度応答性の違いと花芽発生ステージの違いを多変量分析によって分類した結果、花芽発生の温度依存性を説明する経路として、春化経路やTEMPRANILLO 2(TEM2)を介したジベレリン合成経路が抽出された。これら二つの経路が示す季節的応答には高い相関があったことから、春化経路の挙動のみから温暖化に伴う開花フェノロジーシフトの説明ができることが示唆された。これらのことから、春化に関わる鍵遺伝子を用いた遺伝子制御モデルによる開花フェノロジー予測は精度が高いと結論づけた。


日本生態学会